タグ: 士郎正宗

  • 攻殻機動隊が描く意識と知性の未来

    TVアニメ版「攻殻機動隊」の放送が、今週最終回を迎えますね。士郎正宗原作の漫画ですが、むしろ押井守の映画と、その世界観を引き継いだテレビシリーズで知られています。今回は、士郎正宗の原作に忠実なシリーズとなりました。

    シリーズ構成・脚本は、SF界の奇才、円城塔。これまでも、AIや平行宇宙の世界を描いてきた円城塔ですが、今回は手堅く原作の世界をほぼ忠実に再現しました。さて、最終回は、原作の第一巻の結末をどのように料理するのか、楽しみです。

    なぜ今なのか?

    原作漫画の第1巻が1991年、完結編の第2巻が2001年刊行なので、もう四半世紀前の物語なんですが、監視カメラ網が隅々まで普及し、生体認証がスタンダードになり、生成AIが日常化してAIエージェントが幅広く使われるようになった今の時代でも、まったく違和感なく通用する世界観が、この作品の魅力です。

    いや、むしろシンギュラリティの脅威が真剣に語られ始めている現在だからこそ、この物語がリアリティを持って受けとめられるような気がします。その意味では、円城塔を起用して原作に忠実なアニメ化を今のタイミングで行ったことは意味があると思います。

    「人形遣い」というコンセプトの魅力

    ご承知の通り、原作漫画の第1巻は、主人公の草場素子が、人形遣いと呼ばれるインターネット空間上に発生した高度の知性体と融合することで完結します。たぶん、テレビアニメもこれを踏襲するでしょう(もしかしたら、円城塔はそこにひっそりと独自のメッセージを忍ばせるかもしれませんが。。。)。

    この人形遣いという存在、これこそ今、生成AI、フィジカルAIから、自律型AIを経た次のステップを予感させるものです。これが人間と融合するとき、何が起きるのか。それは原作の第2巻が取り上げている主題であり、その結論は東洋的な道教や仏教の世界観へと広がっていくのですが、ぜひテレビアニメ化を期待したいところです。

    別冊日経サイエンス「SFを科学する」が面白い

    ところで、今回の攻殻機動隊のテレビアニメ放映にあわせて色々なイベントが企画されました。

    東京で開催され、その後、関西にも巡回した「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」展は大盛況でした。攻殻機動隊のグローバルサイトでも、関連グッズが次々と販売されています。

    でも、個人的には、別冊日経サイエンス「SFを科学する 士郎正宗をつくるには」が興味深かったです。これは、日経サイエンスのバックナンバーから、士郎正宗が気になった記事を選び、士郎正宗編集として一冊にまとめたもの。

    生物、脳の進化から、生成AI技術、意識、そして暗黒物質まで、士郎正宗が作り上げた攻殻機動隊の世界観の背景にある科学的知見を垣間見ることができる好企画でした。攻殻機動隊の世界に説得力があり、今でも古さを感じさせないのは、こういうリサーチが背景にあったからなんですね。

    意識とは何か

    特に興味深かったのは、「AIで迫る『意識とは何か』」という記事。現在の生成AIが自律型へと移行し、さらに自分で判断して対人サービスなどを行うようになるためには、「意識」を持つことが不可欠です。そして、この「意識」の問題が、攻殻機動隊における「人形遣い」とは何かという問題に深く関わってきます。

    攻殻機動隊では「人形遣い」がネット空間の中で自然発生した意識を持つ高度知性体だと説明されます。人形遣いが、単なる機械知性や人工知能と異なるのは、それが「ゴースト」を持っている点。ゴーストとは、魂とも言い換えられるもので、生命体であればどのような単純な形態でもゴーストを持つとされます。言い換えれば、どんなに高度な知性体であっても、マシンである限りゴーストはありません。

    なぜ「人形遣い」に「ゴースト=魂」が発生したのか

    では、本来、ネット空間の知性体に過ぎない「人形遣い」が、なぜ「ゴースト=魂」を獲得することができたのか。さらになぜ人形遣いは、生命体となるために草薙素子との融合を求めたのか。

    議論の出発点として、あらゆる生命体には知性があることを確認した方が良いでしょう。プラナリアのような単純な生物でも脳があります。知性は、外部の刺激情報を処理し、これに適切に反応して捕食、逃走、退避、攻撃、生殖などを行って種を保存するために不可欠な機能です。

    では、そこになぜ意識が生まれるのか。一つのカギは「グローバル・ワークスペース」という概念です。これは脳内に実在する可能性が検証されつつあり、そこが意識の場ではないかというのが上記の記事の内容です。グローバル・ワークスペースは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚などから得られる情報を共有し、これを整理して判断・行動していくスペースで、前頭葉にあるのではないかと考えられています。こうした情報処理の機能の必要性から意識が生まれたというのが「グローバル・ワークスペース」仮説です。

    攻殻機動隊の「人形遣い」に引きつけて言えば、無数のネット空間を自由に出入りして情報収集やハッキングを行ってきた機械知性体が、その膨大な情報処理を効率的に行うために「グローバル・ワークスペース」を生み出し、それが意識の発生につながった、ということでしょうか。21世紀の脳科学の発展や生成AIを通じた知能研究が発展するはるか前に、人形遣いのような概念を生み出した士郎正宗の先駆性はやはりすごいですね。

    さらに生命と神の問題へ。。。

    今回の日経サイエンス特別編では、攻殻機動隊で取り上げられている生命の問題や、宗教の問題も取り上げられています。

    人形遣いが草薙素子との融合を求めたのは、生命における情報の伝達と多様性・ゆらぎの問題が関わっており、また人形遣いが草薙素子に提示した生命の根源に至る「天御柱」という概念は、量子的な宇宙の上位階層が関わっています。それぞれ、現代の科学がどこまでこの問題を取り扱ってきたのかを概観できる点でも興味深い特集でした。

    さて、また攻殻機動隊を読み直してみようかな。

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