
展覧会・芸術祭を巡りながら投稿したSNSの記事をまとめてみました。なお、幾つかの展覧会の写真はInstagramに投稿しているので良かったらあわせてご覧下さい。
「風間サチコ展:方丈ルームの1000里眼」@弘前れんが倉庫美術館

巨大なキャンバスに描かれた緻密な木版画が、弘前れんが倉庫美術館の大きな展示空間に浮かび上がる。
取り上げられるテーマは、オリンピックや原子力、自然破壊、新型コロナ感染、あるいは現代の管理社会など。これを鋭い批評性と独自のユーモアで寓話的に描いていく作品群は圧倒的な迫力。
それだけでなく、作品には、ワーグナーの「ローエングリン」や歌舞伎の「児雷也」、あるいはトーマス・マンの「魔の山」など、古今東西の小説や物語が自在に引用され、さらに土地の記憶が召喚される。
れんが倉庫美術館の独特な空間に包まれながら、木版画の緻密な巨大な作品に対峙していると、自分の想像力や心の奥にしまい込んだ生命力がざわざわと動き出すのを感じる。それは多分、風間サチコさんの圧倒的なイマジネーションに共鳴しているから。
弘前れんが倉庫美術館という空間だからこそ体験できる至福の出会いでした。
「ロン・ミュエック」展@森美術館

これまで通常のサイズとは異なるリアルな人物像の作品で日常世界に違和感をもたらしてきたミュエック。今回の展覧会は、彼のこれまでの軌跡を振り返るとともに、巨大な骸骨で埋め尽くされた新作インスタレーションを加えることで、新境地も示す。画期的な展覧会!
「椿昇 フリーダムー像と生きる」展@十和田市現代美術館

かつて横浜トリエンナーレ会場に巨大なバッタを出現させた椿昇さん。十和田現代美術館にも巨大なアリさんがいますが、今回は企画展として、巨大な象を館内に出現させました。
「部屋の中の象」というのは、みんなが気づいているけれど存在を無視することでやり過ごそうという問題とか課題を指すことらしいのですが、そんな解釈を離れて、ただ部屋の中にピンクの象がいるという状況に感動を覚えます。馬鹿みたいだけど、ただただすごいとしか言い様がない。
ちなみに、虫の目から見た花の中の風景写真?も楽しいです。椿昇さん、ミクロの虫からマクロの象のまで、自在に視点を変えた風景を提示することで、私たちの凝り固まった感性や思考を心地よく揺さぶってくれるような気がします。
これがアートの力ですね。
トニー・アウスラー 技術と霊知のはざま」展@Tokyo Node

ビデオ・アーチストのトニー・アウスラーの日本初の大規模個展。
闇に浮かぶ巨大な瞳、壁や居室の片隅に置かれた人形に喋り続ける顔が映し出される。彼らがしゃべるのは、断片的で意味をなさないように見えて、よく聞いてみると何かのメッセージのようにも感じられる。
そして、魔術への深い関心。祖父が20世紀初頭に様々なオカルト現象や降霊術のいかさまトリックを暴き続けたそうで、コナン・ドイルとか魔術師フェデラーとかを取り上げた作品もあるのですが、ご本人はむしろネッシー、UFO、ビッグ・フットなどなどの超常現象にかなり興味がある様子。
インスタ映えする展覧会ではありますが、タイトル通り、「技術と霊知」について深く考えさせてくれる好企画でした。
高島野十郎展@松濤美術館

松濤美術館の展覧会も今週一杯。巡回展は次の宇都宮が最後ですね。仏教思想に裏打ちされた光と影の作品を中心に紹介します。絵の前に佇むだけで、どこか癒される感覚をぜひ美術館で味わってみてください。
高島野十郎は東大農学部を首席で卒業したにもかかわらず、恩賜の銀時計を辞退し、画家としての人生を歩む。晩年には千葉の柏に移り住み、仏教書を精読しながら、ひたすら蝋燭の炎や月夜を描き続けた。その自由で求道精神に徹した人生に憧れる。
「ナムジュン・パイク じゅげむ」展@ワタリウム美術館

21世紀の生成AIの時代になってもナムジュン・パイクは新しい。その過激な映像とパフォーマンスは私たちの感性を心地よく刺激する。
青山のビルの一室に啓示=ケージの森を出現させたワタリウム美術館に駆けつけよう!
「ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち」展@福島県立美術館

ゴッホの跳ね橋も素晴らしいけれど、この時代の印象派から後期印象派の画家たちも見応えがある。スーラとシニャックの点描画は色彩が燃えるよう。かと思えば、雪景色の落ち着いた白の美しさにも目を奪われる。ゴッホの初期の暗い色調の風景画も含めて良い展覧会でした。
「中西夏之 緩やかにみつめるためにいつまでも佇む、装置」展@国立国際美術館

今月からセゾン現代美術館で始まった中西夏之展。
私は国立国際美術館で見たのですが、とてもインパクトがありました。
抽象画だけど、明確なコンパセプトがあるし、それぞれ同じようでいて微妙に色彩と形態が違います。まるで上質のフリージャズをライブで聴いている感じ。
初期の釘が並ぶ絵はよく見てましたが、こうやって後期までまとめてみると印象がガラッと変わります。知的で変幻自在だけど躍動感やリズム感もある。
良い展覧会でした。
「共時的星叢」展@東京都現代美術館

台湾の近代芸術の発展を、日本の植民地時代から、国民党の侵攻、独立までたどった展覧会の写真をInstagramにアップしました。台湾の映画監督がキュレートし、日本と台湾の作品を並べることで、両国の関係を可視化させた好企画です。
こうしてみると、両国のアートは単に植民地支配・被支配の関係に還元されない、双方向的である種の共鳴関係にあることがよく分かります。
1つの絵の中には、単なる美学や絵画史的な視点だけでなく、政治・経済・社会状況が色濃く反映されています。さらに植民者の一方的なまなざしや、文化人類学の名の下に行われる収集・分類・保存・管理という知の体系も浸透しています。
そうしたすべてを引き受けた上でそこに想像力と創造力を発揮しようとするのがアートだということを再認識させてくれる好企画でした。
靉光の作品を見るだけでも行く価値ありです!
「カンディンスキー 世界は鳴り響く」展@宇都宮美術館

現在、宮城県立美術館で開催中のカンディンスキー展。国内各地の美術館が所蔵するカンディンスキー作品を一望できる好企画です。
今回の展覧会では、カンディンスキーと神智学の関係も言及されています。
神智学とは、マダム・ブラヴァツキーが19世紀末に創設した近代の神秘主義を指します。そこには、グノーシス主義、新プラトン主義、チベット仏教などが流れ込んでおり、当時の知識人を魅了しました。
カンディンスキーは、この神智学に深く影響されました。彼は著書「藝術における精神的なもの」で神智学を引用し、自分の抽象絵画への影響を明言しています。ちなみに、タイトルの「精神的なもの」は原題では「スピリチャルなもの」です。
つまり、彼の抽象絵画は、絵画技法の革新ではなく、スピリチャルなものを探求する手段として絵画を再定義しようとしたものなのです。
アートとスピリチャルに関心がある方、ぜひお近くの展覧会をご覧ください。
「蜷川実花 はじまりの光」展@川口市立美術館

プライベートで親密で深くノスタルジックな感覚を揺さぶられる心地よい展覧会。
病に倒れた幸雄の病室に通いながら子育てをし仕事する日々を描いた写真シリーズは、淡い光の中に断片的な日常の風景に彼女の言葉が添えられている。命は受け継がれ循環していくというメッセージが心に響く。
圧巻は幸雄の書斎を再現したインスタレーション。
幸雄が愛したオブジェに溢れ返った書斎の周りにはキルト作家の母の作品、引き伸ばされた家族写真などが並べられ、蜷川実花の痛切な哀悼と家族への郷愁が感じられる。そこかしこに置かれた彼岸花が示すように、これはまた亡き父を追悼するためのモニュメントでもあるのだろう。
育児と仕事と介護の合間に撮影された彼女のセルフ・ポートレイトも圧倒的。それは、アーチストの生々しい素顔と感情が生々しく提示されていて思わず言葉を失う。
お勧め!
前橋国際芸術祭2026

前橋市で今年から開催される国際芸術祭。アーツ前橋がメイン会場だけど、周辺にも展示があって街を歩きながら作品を見て回ることができる。
お勧めは蜷川実花のインスタレーション。昔のショーパブのフロアをそのままアート空間に。蜷川らしいガーリーでポップでキッチュでしかもノスタルジアと生きる力を与えてくれる作品。これだけで前橋に来る価値ありです。
銅版画家・駒井哲郎 掌上にひろがる星座のように」展@神奈川県立近代美術館葉山

日曜の朝でほとんど人がいない美術館。ほぼ独占状態で駒井哲郎の夢ともうつつともつかない版画世界を堪能。
50年代に実験工房で活躍し、70年代に早逝した駒井哲郎。クレーやルドンの影響が感じられる初期の夢幻的な作品から、後期の抽象的な作品まで堪能できました。
特に、安東次男などの詩人との豪華詩画集は素晴らしい!野間宏や埴谷雄高の作品の挿画も凄みがありました。
50年代から60年代の日本の前衛芸術の精髄を一望できる良質の企画展。
