ギヨーム・ブラック監督「また会えるよね」

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渋谷のユーロスペースで「ギヨーム・ブラック監督全作品上映」が開催されている。メインは新作の「また会えるよね」だけど、この機会に過去の作品を見返すのも悪くない。

ギヨーム・ブラック監督作品の魅力

ギヨーム・ブラック監督は、これまでコミュニケーションが苦手な人間が、不器用だけど本人としては精一杯の努力で何とか他人とのつながりを回復しようとする物語を語ってきた。

長編第一作の「やさしい人」では、パリから実家に戻ってきたミュージシャンが、そこで出会った女性の心をつかもうと奮闘する。「女っ気なし」では、田舎町でアパートを管理する青年が、ヴァカンスに訪れた母娘と束の間心を通わせる。「みんなのヴァカンス」では、偶然知り合って心を通わせた女性を追いかけて、彼女のヴァカンス先にまで乗り込んで騒動を起こす。。。

そこに描かれる男たちは、どこか世間から外れていて、女性たちとの関わりも少しピントが外れている。だからなかなか彼女たちの心をつかむことができないし、時には大失敗をしてしまうけれど、その一生懸命さにはどこか憎めないところがある。その姿をオフビートに、ユーモアあふれる会話と共に綴っていくところが、ブラック監督の魅力だった。

全寮制高校の日常風景が繊細に描かれる

今回公開された新作「また会えるよね」は、そんな不器用な男から離れ、卒業を控えた全寮制の高校生たちの日常をドキュメンタリー的に追っていく。前年に制作された「リンダとイリナ」の続編という位置づけ。だから、前作でもテーマとなったコミュニケーションの問題はこの映画でも健在だけど、映画の対象は他の高校生にも広がり、繊細で、豊かで、開かれた関係性が描かれる。それがとても魅力的。

映画は、誰でも懐かしい記憶がある高校生活を描いていく。

試験の準備、夜のパーティ、みんなで出かけるピクニック、あるいはキャンパスにたむろしてのおしゃべり。彼/彼女たちは、大学進学や就職の準備をし、将来への不安と希望を抱え、その想いを互いに語り合う。時には、夜の寮で大騒ぎしたり、男子の部屋に忍び込んで秘密パーティーをしようとして見つかったり、青春時代ならではのエピソードも語られる。ブラック監督は、こうした高校生活の断片をとても魅力的に、そして優しい愛情をもって語ってゆく。

それだけではない。

彼/彼女たちは、時にコミュニティの政治活動に参加し、デモや反対集会を組織する。あるいは、キャンプファイヤーの場で、政治的な議論を戦わせる。タトゥーをつけ、髪を染め、過激なファッションを身につけながらも、彼/彼女たちは成熟した大人としての一面を見せる。さらに、大学受験の準備とは言え、哲学的な対話も行う。高校生が寮の一室で「言葉を通じて哲学することは可能か?」という問題について論じるのを見るのは、結構、衝撃的である。果たして、現代日本の高校で、そのような議論を行えるところはどれだけあるのだろう?フランスの教育制度の発展ぶりを目の当たりにしたような気がする。

言葉によっては伝えられない何か

映画は、高校卒業と共に終わる。彼/彼女たちは、寮を出て新たな生活に向かって旅立ってゆく。3年間を共にしながら、結局、伝えきれなかった言葉をささやかな指のふれあいで伝える者。再び会えるかどうか分からないかもしれないと泣く子に、優しく慰めの言葉を伝える仲間たち。

やはりここでもブラック監督は、言葉によっては伝えきれない何かを主題化する。しかし、この映画では、逆に言葉に頼るだけでは伝えきれないけれど、ちょっとした仕草やふれあい、あるいはただ共に時間を過ごすことでしか伝えられない想いや思考が映像化されている。たぶん、ブラック監督がこの映画を撮った理由はそこにあるのだろう。ブラック監督の新たな展開を予感させる素敵な作品でした。

ささやかなおまけ

余談だけど、ギヨーム・ブラック監督の作品が、日本でここまで高く評価されたきっかけは、蓮実重彦の紹介によるところが大きいです。「編集の『残酷さ』をそうとは感じさせない驚くべき若い映画作家が出現した」(「映画時評2012−2014」所収)というタイトルの一文で、ギヨーム・ブラック監督ブームに火がつきました。少しだけ、そこから引用しておきます。

この新人監督の素晴らしさは、何よりもまず、その対象ーー空間、時間、存在、事物、風景ーーを呆気ないほどの簡潔さで描ききっていることにある。(中略)本当に久方ぶりに、ことによると小津以来かもしれないが、この若いフランスの映画作家は、編集にまつわるあらゆる「残酷さ」を真摯に引き受けながら、しかも画面にそこはかとないユーモラスな味さえ漂わせ、その「残酷さ」をこれみよがしに視覚化させることがないのである。その意味で、『女っ気なし』の監督は、途方もなく高度な演出に終始しており、これは端倪すべからぬ新人が登場したといわざるをえない。彼が意識していたとは思えないが、ゴダールの「古典的デクパージュの擁護と顕揚」で語られていたことがはじめて実現されたかのように、深い感動を覚えた。

相変わらずの蓮実節ですね。この文章を読んで映画館に駆けつけた人も多いと思います。さて、皆さんはいかがでしょうか?

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