ジョセフ・L・マンキーウィッツ監督「大脱獄」
カーク・ダグラスとヘンリー・フォンダ主演の西部劇。監督はベテランのジョセフ・L・マンキーウィッツ監督。軽いタッチのウェスタン・コメディ。安心して見ていられるけど、内容は深い。
お話はその名の通り、50万ドルを強盗し、独り占めしようとするパットマン(カーク・ダグラス)が脱出不可能な砂漠の中の刑務所に収容されるけど、仲間を募って脱獄しようと言うお話。彼は、如才がなくて気がついたら刑務所内を統括している。これに対し、ロープマン所長(ヘンリー・フォンダ)は真面目一辺倒。パットマンから、脱獄を大目に見てくれたら分け前をだしてもよいという美味しい話にも乗らず、囚人の待遇改善に乗り出す。囚人を風呂に入れ、無意味な採石場での労働をやめさせ、食堂を建築し、医療院を設立して医師を勤務させる。作業の指揮を取るのはパットマン。所長に協力すると見せかけながら、着々と仲間を集め、脱獄の機会を伺う。この辺りの二人の駆け引きが面白い。
で、結局、パットマンは計画通り脱獄する。ロープマンは、食堂の新築のお祝いで副知事を招いていたときに大騒動が起きて脱獄されたので、完全にメンツを失い、パットマンの跡を追う。そして。。。という展開。二転三転の逆転劇があって、監督の一筋縄ではいかない人間理解が感じられる。現実の人間は、状況によっていい人にも悪い人にもなるし、信頼していた人間に裏切られたりもする。軽いコメディタッチで描かれていながら、多くの人々が死に、信頼が裏切られたりする姿が描かれるので内容は重い。
キャラクターが魅力的。端役に至るまで、それぞれが人生を語ってくれる。ミズーリ・キッドが農園を夢見て牢獄で何か野菜を育てていたりする。あるいは、詐欺師の二人組。絵も描けるしお裁縫もできる片割れと、威張っていて大言壮語するけれど、結局全てを片割れに頼っている相棒。きっとこの二人はゲイのカップルなんだろうな、と思わせる場面もあり、監督の温かい眼差しが感じられる。
パットマンが脱獄に成功し、ラバに乗って砂漠を横断し、とある民家で馬を盗もうとする場面も印象的。女主人が現れてパットマンに銃を向ける。パットマンも仕方なく、両手を上げて女主人の元に近づいていく。家のそばまで来て女主人は顔を確認するが、そのままパットマンを家の中に招き入れてしまう。次の場面ではベッドの中の二人が映し出される。実は、女主人は未亡人だった。。。というオチなんだけど、そのあまりにも自然な展開がとてもいい。大人の映画を感じさせる。
もう一つ気になったのは、丸腰の保安官を撃って捕縛され、刑務所内でも仲間を売って利益を図っていたフロイドを、パットマンが殺す場面。ともに協力して脱獄に成功したのに、パットマンは「仲間を売った奴は信頼できない」と言って無造作に射殺する。そこには、マッカーシー旋風が吹き荒れる40年代のハリウッドで、赤狩りに巻き込まれたマンキーウィッツの苦い経験が色濃く影を落としているのかもしれません。
古き良き時代の、豊かで人間性への洞察に満ちた西部劇映画。