ジョン・ヒューストン監督「勝利への脱出」

ジョン・ヒューストン監督の「勝利への脱出」を見る。1981年の作品。出演は、シルベスタ・スタローン、マイケル・ケイン、マックス・フォン・シドー、ペレなど。「ロッキー」シリーズでメジャー入りを果たしたスタローンが、「ランボー」シリーズに入る前に出演した作品。この年、スタローンは「ナイトホークス」にも主演していて、一気にスターダムへと駆け上がっていった。僕も、この映画は公開当時に映画館で見た。スタローンにも関心があったけど、当時は、ペレの「バイシクル・シュート」が結構売りになっていたので、これに心を引かれたのかも知れない。

映画の舞台は、第二次世界大戦中の連合軍捕虜収容所。ドイツの捕虜となった連合軍兵士からサッカー選手が集められ、ドイツ代表との間で国際試合が開催されることになった。物資も限られ、選手も混成部隊の中で、なんとか勝利を勝ち取ろうとチームを指揮するイギリス軍大尉のコルビー(=マイケル・ケイン)。脱走の常習犯のハッチ(=シルベスタ・スタローン)がキーパーとしてチームに加わる。同時に、国際試合に紛れて連合軍兵士を脱走させようという計画が密かに進行していた。。。

正直、公開時に見た記憶はほとんどない。印象としては、普通の第二次世界大戦の脱走もの映画というもの。鳴り物入りのサッカー場面はペレのバイシクル・シュートも含めて雑ぱくで、ワールドカップ・サッカー並みのプレイを期待していた観客には物足りないだろうな、という位の感想しか覚えていない。実際、映画にはワールドカップに出場した選手たちが多数起用されていたのだけど、華麗なサッカー・シーンと言うよりも、乱闘に近いラフ・プレイが続いてつまらないという印象の方が強かった。

でも、今回、見直してみて、むしろ端正な捕虜収容所ものだな、という印象を持った。巨匠ジョン・ヒューストン監督の長いキャリアの中では、後期になるこの作品。映画の冒頭、収容所の捕虜の一人が夜の闇に乗じて脱走しようとするが失敗してしまう場面。これが切り替わって、昼間の場面となり、サッカー好きのドイツ人少佐シュタイナー(=マックス・フォン・シドー)が乗った車が収容所に近づいてくるのをカメラが映し出す。そのままカメラは、収容所の敷地を鳥瞰する場面へと転換する。現在では、ドローンなどを使って簡単に撮れるけれど、当時としては画期的な高い視点だし、何よりも閉ざされた収容所の夜の空間から、これを鳥瞰する場面への転換による開放感が気持ちいい。監督の演出の妙を感じさせる。

この後、映画は連合軍の混成チーム作りに情熱を傾けるコルビーと、脱走に向けて着々と準備を進めるハッチの二人を軸に物語が進行する。チーム全体の脱走を準備するために、単身、収容所を脱走し、パリのレジスタンス組織と接触するハッチ。レジスタンス組織の女性とのささやかな心の交流も安心してみていることができる手堅い演出である。すべてが、きちんと適切な場所に収まっている気持ちよさ、とでも言うのだろうか。

もちろん、映画は国際試合とこれに続く「栄光への脱出」でクライマックスを迎える。計画では、ハーフ・タイムで選手全員が脱出することになっていたが、前半にドイツチームにリードを許した選手たちは、サッカー選手としての名誉と誇りのために脱出を拒否し、後半戦に挑むことになる。彼らは、逆転できるのか、そして、脱出は成功するのか、はぜひこの映画を見て実際に確かめてほしい。

僕は、今回、この最後のクライマックスの脱出場面を見直してみて不意を突かれて感動してしまった。1980年代に、これだけの大群衆を動員した映画作りができたなんてすごすぎる。連合軍チームを応援するためにスタジアムを埋め尽くしたフランス人観客がラ・マルセイエーズを歌い始め、試合終了時にはグランドへとなだれ込む。自由と連帯に向けてのストレートなメッセージ。改めて、ジョン・ヒューストン監督の偉大さを痛感した。

実は僕は、死の直前まで映画を撮り続けて亡くなったこの巨匠の80年代の作品のうち、「アニー」も「火山のもとで」も「ザ・デッド」も見ていない。円熟期のジョン・ヒューストン監督の手腕を味わうためにも、今度、ビデオを探してみよう。

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