テレンス・ヤング監督「夜の訪問者」
テレンス・ヤング監督「夜の訪問者」を見る。1970年公開のイタリア・フランス合作映画。チャールズ・ブロンソン主演。リブ・ウルマンとジェームズ・メイソンが脇を固めている。
僕は全くの予備知識なしにBSで録画したのを見たんだけど、冒頭から引き込まれてしまった。テレンス・ヤング監督、初期の007シリーズやオードリー・ヘップバーン主演の「暗くなるまで待って」は見ていたけど、こんなに面白い人だとは。。。またまたの発見である。
舞台は、南仏の港町。ジョー(=チャールズ・ブロンソン)は、船を貸して生計を立てているアメリカ人。町の仲間たちとのカード・ゲームで一儲けして深夜に自宅に戻ると、妻のファビエンヌ(=リブ・ウルマン)から無言電話があったという話がある。どこか思い当たることがあるのか、ジョーはファビエンヌに、明日、キャンプに行っている娘のミシェルを引き取ってしばらく実家に帰っているように伝える。不審に感じるファビエンヌ。そこに再び電話がかかってくる。実は、ジョーは昔、仲間たちと共に刑務所を脱走を計画したのだが、残りの仲間を裏切って一人だけ逃亡したという過去を持つ。かつての軍隊の上官であるロス(=ジェームズ・メイソン)とその仲間たちが脱獄し、ジョーの居場所を突き止めてやってきたのだ。。。
無言電話から、何者かが家に侵入し、ジョーと争いになるまでの冒頭の場面が緊迫感にあふれている。無言電話の恐怖、深夜に家の周辺を歩き回る何者かの気配、気づいたら開いている窓、揺れるカーテン、突然返答しなくなったジョーの身を気遣って階下に探しに行くファビエンヌの不安な面持ち。。。一つ一つのショットに全く無駄がなく、どんどんと観客を引き込んでいく。これが映画の楽しみ。本当にうまい。
映画は、ロスたち昔の仲間とジョーの駆け引きを軸に展開していくが、その物語の運びも素晴らしい。ファビエンヌと娘のミシェルを人質に取られたジョーは、船を提供して彼らの闇取引と逃走を手伝うように脅される。しかし、一人一人、敵を倒して追い詰めていくジョーの手際の良さ。チャールズ・ブロンソンの切れのいい身のこなしが、この反撃に説得力のあるものにしている。タイムリミットの中、妻子を救うために街中を暴走して白バイに追われる場面のカーチェイスも見応えがある。主観ショットで猛スピードの車が曲がりくねった山道を疾走するのを捉えたカメラワークは、多分、当時の定番の一つなんだろうけれど、今から見ると新鮮である。
さらに、キャラクターも立っている。ヒッチコック映画の常連ジェームズ・メイソンは、いつものように上流階級の気品を漂わせつつ裏世界に通じる悪役を演じている。さすが、ケンブリッジ大学出身の俳優だけのことはある。ロスの配下の一人でアルジェの傭兵役のジャン・トパールが素晴らしい。殺人を楽しんでいるようにも見える冷酷な兵士であり、しかもまだ10代のミシェルを欲望でみなぎった視線で見つめるサイコなキャラクター。同じ部屋の中に彼とミシェルがいるだけで、空間に緊張感がみなぎる。ファビエンヌとミシェルは、枯れ草に火をつけ、煙に紛れて彼から逃れようとするけれど、この逃亡劇も手に汗を握るものがある。
ストーリーとしてはシンプルだけど、それを魅力あふれる映画的細部を紡いでいくことでしっかりと見せてしまう名作でした。やはりBSシネマのセレクションは発見があります。