「ふたつのまどかーコレクション×5人の作家」展@DIC川村記念美術館
以前から気になっていた川村美術館の「ふたつのまどか」展の最終日に駆け込み。以前から行こう行こうと思いながらついついずるずると先延ばしにして最終日になってしまった。我ながら計画性のなさに呆れる。ぎりぎりまで引っ張ってしまうと何かあって見損ねてしまう可能性もあるし、そもそも最終日に行ったって、ブログやツイッターに記事を投稿しても誰も読んでくれない。やはりオープニングに駆けつけなければ、と思うのだけれども、どうも僕はダメである。なんだろう、この先延ばし癖。何か深層心理でトラウマでもあるのだろうか。
そんなことはともかく、「2つのまどか」展、いい展覧会でした。川村美術館の所蔵作品と5人の現代アーチストが作品を通じて対話しようという試み。誰でも知っている作品に呼応して現代アーチストが作品を展示する。アーティゾン美術館のオープニングもそうだったけれど、アーチストの作品を見ることができるだけでなく、過去の名作の再解釈にもつながる。こういう企画はどんどんやってほしい。
今回のお目当ては、「さわひらき×サイ・トゥオンブリー」。サイ・トゥオンブリーの抽象的な世界観をさわさんがどのように解釈するか、考えただけでもワクワクする。結果は、もちろん期待以上。さわさんは、トゥオンブリーの世界を、時間や記憶という主題を通じて再解釈し作品として提示する。大体はこれまでの作品の再展示だけど、こうして並べてみると、さわさんの夢幻的な世界は実は時間や記憶と密接に結びついていただんだと言うことが改めて実感できる。
例えば、さわさんのトレードマークとも言うべきビデオ作品。普通のアパートの一室をゆっくりとカメラが移動していく。大小様々な木馬がゆっくりと揺れ動いており、ミニチュアのラクダがまるで砂漠を行く隊商のようにクッションの山を越えていく。かと思うと、おもちゃのような飛行機が部屋の中をゆっくりと飛行し、窓の外の夜空に突然花火が上がる。クローゼットの暗闇にカメラが近づいていくとその暗闇に突然灯りが煌々と照らされているオフィスビルが出現する。室内に川が流れていて木馬が渡って行くかと思えば、床に木立が出現し、風に吹かれて梢がざわめく。見ていると、そのゆったりしたリズムと普通のサイズ感からかけ離れた遠近感の喪失によって意識と身体が曖昧化していく。その夢幻的な感覚がさわさんの映像の魅力だけど、実は、トゥオンブリの描く抽象的に反復していく世界もこの感覚に通じるものがあるのかもしれない。
新作のMemoria Paralelaも面白い。30年以上ビジネス・パートナーとしてやってきた友人が突然記憶喪失になる。彼は過去のことを一切忘れてしまっていて膨大なレコードのコレクションを聴いても思い出せない。結局、彼はレコード・コレクションを処分してしまい、新たなコレクションを始める。しかし、そのやり方は彼がレコードのコレクションを行っていたやり方とそっくりだった。。。概略、こういう物語が英語のナレーションで語られる(日本語字幕付き)。同時に、2枚のスクリーンにスライドの形で映し出されるのは、どうやらそのビジネス・パートナーの部屋だったり、家の周囲と思しき風景だったりするようだ。あるいは彼らが住む街の風景なども。しかし、やがてそのスライドに、球体が落下してくる。球体は、数を増やし、スライドに映し出された様々な空間の中で増殖し、転がり続ける。。。。
球体がなんなのかは最後まで説明されないけれど、たぶん、記憶や過去に関わっているのだろうなという感じはする。そしていつものさわさんの映像作品のように、その球体の動きは緩やかで、その手触りはどこか懐かしさを感じさせていて、球体が増殖し、動き回るのを観ているのは心地よい。記憶を失う物語でありながら、そこに描かれているのはごくありふれた日常の風景である。その中にサイズ感が失われてしまった球体が動くのを観ていると、やはりさわさんの映像世界としか言いようのない夢幻感覚が立ち現れてくる。本当に不思議なアーチストだと思う。
これ以外のアーチストもそれぞれ面白いけれど、僕が気に入ったのは福田尚代さんの作品。ジョゼフ・コーネルの作品をモチーフに、刺繍や書物や繊維や石などの多様な素材を使い、細かい反復で作品を作っていく。しかし、例えば草間彌生さんの反復に観られるような強迫性は感じられず、むしろ柔らかな色調や素材の手触り感で親密さを感じさせる。そこが面白い。コラージュの中には、女性の目や口がびっしりと織り込まれている作品もあって少しびっくりするけれど、怖いと言うよりも何か少女趣味を感じさせる不思議な作家だった。福田さんは、回文を使った作品も発表しているとのこと。言葉をアートの素材にするなんて、面白い。ちょっとこれから追いかけてみようと思いました。
野口里佳さんの小さな生物を捕らえた写真作品も面白かったです。ジョアン・ミロの作品にインスピレーションを得て作成された一連の写真シリーズは、透明感のある光と、不思議な形態で、確かにミロの作品と共鳴するものを感じさせました。これも良い感じですね。なかなか良い展覧会でした。