レニー・ハーリン監督「クリフ・ハンガー」

BSシネマで放映されたレニー・ハーリン監督「クリフ・ハンガー」を観る。1993年の作品。主演は、シルヴェスター・スタローン他。スタローンは脚本にも入っている。

この映画が公開された時、淀川長治さんがどこかで絶賛していたのを記憶している。淀川さんによると、この映画は高所から落下することの恐怖を映画的に徹底的に追求した映画である。映画好きなら誰でも思い出す高所恐怖症のイメージ。それは、ヒッチコックの「めまい」「北北西に進路を取れ」「逃走迷路」などの名場面を思い出すだけで充分だろう。映画史において、高所で落下しそうになりながら人の手を握って救おうとする行為は繰り返し語られてきた重要な主題なのである。これを映画における1エピソードとして扱うのではなく、全編にわたる主題として扱おうとした映画がクリフ・ハンガーだという指摘。さすがは映画史と共に生きてきた淀川さんである。

「ロッキー」シリーズと「ランボー」シリーズでスターダムにのし上がったスタローンは、実は映画史に深い敬意を捧げながら、自身のアクションによってこれを革新していこうという映画作家でもあった。それは、「エクスペンダブルズ」シリーズも含めて、監督、製作、脚本などの形で関わりながら自らも出演している作品を観ていれば明らかだけど、それを90年代に指摘していたところに、淀川さんの偉大さがある。

実際、久し振りにこの映画を見直してみても、本当に見応えがある。映画の冒頭、スタローンがコロラド州のロッキー山脈で山岳救助隊員として同僚のハルとその恋人サラの救出に向かう。何とかハルは救出するものの、サラはつかんだ手を保持しつつづけることができずに落下させて死なせてしまう。どこまでが合成でどこまでが現地ロケか分からないリアルな映像で、カメラは1人の人間が1200メートルの高所から落下する瞬間を捉える。それは、ヒッチコックがスタジオで実現しようとしてどうしてもできなかったリアリティを持っている。強烈な出だしである。

その後、映画は、テロ組織の航空機乗っ取りと財務省の紙幣剥奪を巡って展開するだろう。高山での大金が入ったスーツケースの争奪戦。映画は、常に高山での高低差をしっかりとカメラに捉え、落下の恐怖や突然起きる雪崩の脅威を描いていく。まるで映画の主人公は、スタローンでもテロリストとの戦いでもなく、高山でのクライミングと墜落にあるかのようだ。

例えばそれは、装備もなしに断崖絶壁を登っていくことであり、あるいはロープを大きく揺らしながら絶壁から隣の絶壁に移動することであり、あるいは断崖からパラシュートを装着して飛び降りることである。さらに狭い洞窟内の上昇と下降、断崖絶壁に懸けられたハシゴ上での格闘、爆破された吊り橋から対岸に飛び移ることなどのアクションが続く。まさにこの映画は、切り立った峰が続くロッキー山脈という場所を使ってどのようなアクションが可能かを極限まで追求した映画だと言えるだろう。さらにこれに、凍結した湖の氷上と水中の間でのガンファイトなどが加わる。どこまでがレニー・ハーリン監督のアイディアでどこまでがスタローンのアイディアか分からないけれど、この映画はそんな映画的アイディアに溢れた魅力的な作品なのである。

改めて、シルヴェスター・スタローンという映画作家の偉大さを感じる。やっぱりどこかで一度、映画作家としてのシルヴェスター・スタローン特集をやって欲しい。彼がこれまでやってきた仕事は、確実に映画史に残るものなのだから。

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