ドゥッチョ・テッサリ監督「夕陽の用心棒」

BSシネマで録画したままになっていたドゥッチョ・テッサリ監督「夕陽の用心棒」を観る。1965年の作品。主演はジュリアーノ・ジェンマ、フェルナンド・サンチョ、ハリー・ハモンド、ニエベス・ナバロ他。この映画でジュリアーノ・ジェンマは一躍スターダムに上り、その後、「荒野の1ドル銀貨」や「星空の用心棒」などのマカロニ・ウェスタン映画に出演していくことになる。「夕焼けの用心棒」の主人公Ringoが登場する映画も何本も撮られている。そういう意味では映画史に残る作品。また、ドゥッチョ・テッサリ監督も、セルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」やセルジオ・コルブッチ監督の「タイタンの戦い」などに脚本家として参加し、この映画のヒットで監督としてキャリアを歩み始めることになる。音楽はエンニオ・モリコーネ。マカロニ・ウェスタンの典型的な作品。

物語の舞台はクリスマスが間近に迫ったテキサスの街。保安官のベン(=ジョージ・マーティン)は恋人のルビー(=ハリー・ハモンド)とクリスマスを過ごす計画を立てていたが、そこにメキシコから越境してきたサンチョ(=フェルナンド・サンチョ)率いる強盗団の銀行襲撃事件が発生する。5万ドルという大金を奪って逃走するサンチョたち。ベンは街の男たちを集めて追跡する。サンチョたちは逃げ切れないとみてルビーたちを人質に農園に立て籠もる。困ったベンは、牢獄にぶち込んでいたならず者のリンゴ—(=ジュリアーノ・ジェンマ)に人質奪還を依頼する。奪われたお金の3割を報酬で受け取ることを約束し、リンゴーは銃も持たずに単身、農園に乗り込む・・・。

ハンサムでいつもこざっぱりとファッションを固め、無敵の早撃ちと外見に似合わない腕っ節の強さ。臨機応変に機転を利かせて口八丁で危機を切り抜け、悪党を翻弄する。人を殺す時は常に正当防衛で、正義を貫き、女たちにやさしい紳士・・・。マカロニ・ウェスタンの典型的なキャラクターであるリンゴを説得力あるかたちで演ずることができるのは、やはりジュリアーノ・ジェンマしかいない。荒唐無稽なキャラだけど、ジュリアーノ・ジェンマを観ていると、なんどか現実にいそうな気がしてくるから不思議である。

そして悪党たち!マカロニ・ウェスタンの定番キャラとして強盗団の首領を演ずるフェルナンド・サンチョも、いつものように悪逆非道、敵も味方も見境なく平気で人を殺し、自分の利益のことしか考えない。相手を裏切るのも意に介さず、粗暴で礼儀知らず。でも、やはりフェルナンド・サンチョが演ずると、リアリティがあるんだよね。このキャラがあってこそ、ジュリアーノ・ジェンマが映える。

そして、エンニオ・モリコーネの音楽。この映画には、特に心に残るような印象的な曲はないけれど、全編に軽快に流れていく音楽が映画のリズム感を高める。映画の冒頭、サンチョたちが銀行を襲撃する場面では、銀行の前で演奏する大道芸人たちの音楽が効果的に活用され、サンチョたち一行が銀行に向かって近づいていく位置関係が画面を見なくても分かるような仕掛けになっている。耳に心地よい音楽が同時に悪党たちの位置関係を表示し、さらに銀行襲撃エピソードの狂言回しまで担う。こんな斬新な映画音楽の使い方があるのかと舌を巻く。うまい。こうした映画音楽の使い方は、例えば、後半でのクリスマス・キャロルにも現れている。屋内で人びとがクリスマス・キャロルを歌う。画面が切り替わって、屋外で暗闇に紛れて敵を襲撃する場面にも、クリスマス・キャロルのメロディーをかすかに残した映画音楽がBGM的に使われる。こういう映画音楽の主題を使ったカットつなぎがあるのかと感心しました。マカロニ・ウェスタンと言ってもいろいろと斬新な試みがなされているんですね。

マカロニ・ウェスタンのお約束として、部屋の中での派手な破壊があり、早撃ちの決闘があり、残虐な拷問シーンがあり、殴り合いがあり、だまし合いがあり、悪党が美女を襲う場面があり・・・とサービス精神旺盛である。すべてが過剰で、紋切り型で、扇情的だけど、どこかウキウキさせるような映画的工夫が細部に満ちている。観ていて幸せになる映画でした。たまには、マカロニ・ウェスタンも良いですね。

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