ETV特集「記憶は愛である〜森崎東・忘却と闘う映画監督」
ETV特集の再放送「記憶は愛である〜森崎東・忘却と闘う映画監督」を観る。森崎監督の追悼番組でもある。森崎監督の遺作となった「ペコロスの母に会いに行く」の撮影風景を追いながら、森崎監督の演出スタイルや歴史への思いなどをインタビューしたドキュメンタリー。
中心的なテーマは、タイトル通り、「記憶」。当時、森崎監督は認知症の初期段階に入っており、映画の撮影に不安を感じていたらしい。このため、撮影監督の浜田毅や監督補の佐藤雅道には認知症のことを伝え、現場では森崎監督が直接指示するのではなく、佐藤が代わりに指示したとのこと。完成した作品は、そんな舞台裏をみじんも感じさせない高い完成度だったので、正直驚く。映画自体が、認知症の母親をテーマにしたものだから、森崎監督も、自身の体験に引きつける形で思い入れが深かったのではないだろうか。。。
番組は、「ペコロスの母に会いに行く」の撮影を追いながら、森崎監督の戦争に対する思いと認知症への思いを掘り下げていく。
戦争の記憶は、主に森崎監督の兄をめぐるもの。森崎監督の兄はとても優秀な人で、満州の建国大学を卒業後、軍人となったが、敗戦の翌日に割腹自殺した。森崎監督は、そのことの意味をずっと考え続けてきたそうで、それが「ペコロスの母に会いに行く」にも反映されている。長崎を舞台にし、第二次世界大戦と原爆の記憶をテーマに取り上げたところにそれは現れている。
もうひとつは、認知症への思い。認知症による忘却を身をもって体験しているからこそ、森崎監督は思い出すことにこだわる。撮影中、森崎監督がシナリオにない音楽を入れることを言い出したエピソードが興味深い。森崎監督は、第二次世界大戦中の軍歌をぜひ挿入したいと主張したのだ。スタッフは最初は難色を示していたが、最終的には軍歌を聴いて戦争中の記憶を取り戻す場面を加える。軍歌を聴いて、母親が過去の記憶を取り戻し、ひとこと「しょうもない」と吐き捨てるように言う場面がそれだ。これによって、「ペコロスの母に会いに行く」は、単に認知症の母を介護する息子の物語を越えて、戦争と原爆に翻弄された長崎の人たちの歴史の記憶を巡る物語へと広がっていく。映画は、このようにして豊かになっていくのかということを実感させるエピソードだった。
余談だけど、シネマヴェーラ渋谷が11月21日から12月11日まで3週間、森崎東監督追悼特集プログラムを開催するとのこと。これは楽しみですね。この機会に見逃した作品をぜひまとめてみたい!