「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」@そごう美術館
バンクシー展を観た後は、そごう美術館に移動して「ショーン・タンの世界展」へ。まったく予備知識なしにぶらっと入ったんだけど、その奇妙なクリーチャー達が繰りひろげるノスタルジアとファンタジーあふれる世界に魅了される。
ショーン・タンは、オーストラリア在住の画家兼、絵本作家である。名前からわかるとおり、父親が中国系マレーシア人で母親がオーストラリア人。今でこそ多民族社会になりつつあるが、1970年代まで白豪主義を掲げ、現在でも有識人種に対する差別意識が残るオーストラリア社会において、中国系マレーシア人の血を引くショーン・タンは、自分がマイノリティ・グループの存在だという意識がどこかにあったのかもしれない。その影響か、彼の描く作品世界では、常にこの世界の周縁でひっそりと生きる奇妙な者たちが登場する。彼らは、ほとんどの人が気づかないような世界の片隅の存在だけど、優しく思いやりに満ち、そして独自の価値観と美意識を持った誇り高い存在でもある。そうした存在をショーン・タンはパステルや鉛筆で繊細かつ幻想的に描いていく。
展覧会の中心は、全世界で翻訳されている名作「アライバル」の原画である。異邦の地に到着した移民が、見知らぬ街ではじめた孤独な生活の中で、不思議なクリーチャーと出会って心を慰められ、徐々に新たな土地の生活に慣れはじめる物語。しかし、その国はまた、無機的な工場生産に支配され、戦争のために人びとが兵士としてかり出される世界でもあった。。。。
鉛筆だけで精密に描かれた原画が素晴らしい。色彩がない分、鉛筆画の微妙な明暗の階調が浮かび上がらせる光と影が心地よいリズムをもたらす。そして、不思議なクリーチャーと街並みの風景。ショーン・タンは、文字も読めず言葉もわからない移民の不安感を映像化するために、あえて街の看板や標識には自分で創り出した文字を採用したとのこと。街中には、奇妙で独特のオブジェが配され、懐かしいけれどどこか違和感を感じさせる独特の世界が出現する。確かに、移民にとって、世界はこのような形で現れるのだろう。ショーン・タンという才能の豊かなイマジネーションを実感する。
これ以外にも、「ロストシング」の原画とアニメ作品、「遠い町から来た話」、「夏のルール」、「内なる町から来た話」などの絵本の原画、そして画家として制作し続けている油彩画などが展示されていて見応えのある展覧会でした。世界の片隅に生きる自分たちとは異なる小さき者たちへの想像力。これは、このタフな世界を生き抜いていくためには不必要だったり、時には邪魔になるものなのかもしれないけれど、良き生を送るためには不可欠なもの。大人になって、日々の雑事と喧噪の中で忘れてしまったそんな大切なものを思い出させてくれるショーン・タンの絵本の世界は、本当に貴重なものだと思います。お勧めの展覧会!