武正晴監督「銃」
週末にビデオでも観ようと思い、特に何も考えずに「銃」を借りてきた。見始めたら、いきなり村上虹郎が出てきて一瞬、ぎょっとする。昨日見た「ソワレ」にも村上虹郎が出ていて強烈な印象をはなっていたけど、その続きのように登場したからである。しかも、「ソワレ」は父殺しを巡る物語であり、「銃」は母殺しを巡る物語である。偶然にしては出来すぎているなと思いつつ、気にしても仕方がないのでそのまま最後まで見る。面白い。
この作品は、武正晴監督の2018年の作品。出演は、村上虹郎、広瀬アリス、村上淳、リリー・フランキー他。偶然、銃を拾ったために徐々に精神の均衡を失っていく主人公の村上虹郎が印象的だが、刑事として村上の身辺を調査し始めるリリー・フランキーの存在感が圧倒的に面白い。どう考えても、刑事ではなくたちの悪いヤクザか社会の裏の裏まで知り尽くした詐欺師のキャラクター。リリー・フランキーの存在によって、親なき子供たちの社会に対する憎しみの物語が、銃という暴力手段をたまたま手にしてしまったために社会から逸脱して狂気に陥っていく孤独な魂の物語に昇華した。原作は中村文則。製作は奥山知由。久々にチーム奥山のインディペンデントなテイストが全快の快作となった。そういえば、大林宣彦監督の遺作となった「海辺の映画館ーキネマの玉手箱」も奥山さんがプロデュースしてるんだよね。まだまだ奥山パワーは健在です。
物語は、大学生の西川トオル(=村上虹郎)が拳銃を拾うことから始まる。トオルは銃を自宅に持ち帰るが、徐々に銃の魅力にとりつかれていく。その拳銃はある男が自殺に使ったものだった。この事件を捜査する刑事(=リリー・フランキー)がトオルに接触してきて、拳銃が人にもたらす狂気について語り始める。刑事は、トオルに銃を捨てるよう勧めるが、逆にトオルは刑事の言葉に暗示されたかのように銃を撃ちたいという欲望にとりつかれていく。。。
武正晴監督の演出が素晴らしい。白黒の画面に光と闇のコントラストが鮮明な画面構成。リリー・フランキー扮する刑事がトオルに接触する際の謎めいた雰囲気。空虚なキャンパス・ライフ。隣室から女がヒステリックに幼い息子を叱りつける声が漏れ聞こえてきて、不快感と不安感を高めていく。トオルにからむ二人の女。彼らもまたトオルの心をかき乱していく。。。計算され尽くされた構図と照明、的確に進んでいく物語、すべての出演者がまるで当て書きされたかのようにそれぞれの役柄をしっかりと演じていく。今まで気になっていたけれど作品を見たことがなかった武正晴監督の手腕に舌を巻く。彼の名前を初めて聞いたのは2014年の「百円の恋」だから、まだ若い監督だと思っていたけれど、略歴を見ると、西川美和、中島哲也、中江裕司から森崎東、中原俊、井筒和彦・・・と多くのベテラン監督に助監督としてついてきたたたき上げのベテランだった。道理で、画面にも演出にも一ミリの狂いもないわけだ。。。これはしばらく武正晴監督の作品を追っかけなければ。。。