「センス・オブ・ワンダー」展@ヴァンジ彫刻庭園美術館
新型コロナウィルス感染拡大で巣ごもりの日々が続く中、久しぶりに外の空気に触れたくなって日帰りでヴァンジ彫刻庭園美術館の「センス・オブ・ワンダー:もう一つの庭へ」展を見に出かける。「沈黙の春」で自然破壊に警鐘を鳴らした海洋生物学者レイチェル・カーソンの遺作「センス・オブ・ワンダー」をテーマにした企画展。自然に対峙した時に人間が感じる驚きや畏敬の念、そして精緻に張り巡らされた生物界のネットワークと叡智に対する純粋な賞賛を、現代作家がそれぞれの手法で表現した作品を集めた展覧会である。
今回のお目当ては、「古典×現代2020」展でも存在感を示していた川内倫子さんの作品。ナチュラルとしか言いようのない光の中に自然のちょっとしたたたずまいを切り取る彼女の作品には本当に心惹かれる。太陽の光の中、水滴を光らせて風に揺れる蜘蛛の巣、あるいは緑を背景に何かを求めて駈けていく幼女。川内さんの作品には、ささやかなるものの一瞬のきらめきが映し出されている。それはとてももろくて柔らかいものだけど、その一瞬には世界の中のかけがえのない何かが現れている。今回の展覧会も、作品数は少なかったけれど、そんな素敵な作品に出会うことができた。これだけでもはるばる見に来た甲斐がある。
須田悦弘さんは、いつものように、コンクリートの壁にふと顔を出している人造の草花を何気なく配置する。むき出しの壁から本当に生えてきたような錯覚に陥る彼の作品の魅力は、やはりそのかそけき感覚にあるのだと思う。無機質で冷たく感じる壁だからこそ、そこから顔を出している草花の姿は、たとえ人造のものでも美しい。作品を探す楽しみも含めて、今回も魅力的な作品になっていた。
今回、とても気に入ったのは、ドイツの作家クリスティアーネ・レーアの作品。戸外で収集した植物の種や茎、綿毛などを集めて立体作品に仕上げたものだけど、モノトーンの色彩でまとめられた繊細な造型の美しさにはっとさせられる。多分、自然の中にある時はそれほど意識しないけれど、例えば綿毛が集まって一つの袋になったり、無数の種子が集まって森のようになったりすることで作品に変貌し、見る者は、一見儚くもろいそのようなささいなモノたちの持つ形の精巧さに息をのむことになる。何気なく見過ごしてしまいがちのこうした小さきモノたちを作品化することで、自然の奥深い神秘を実感させてくれるレーアの作品は、まさに「センス・オブ・ワンダー」だと感じた。
今回は、7人の現代作家の作品が展示されている。本当に小規模なささやかな展覧会だけど、それぞれに見応えがある。作家のうち、何人かはヴァンジ庭園美術館にアーチスト・イン・レジデンスの形で滞在して作品を制作したとのこと。こんな素晴らしい自然に囲まれた場所に滞在して生み出された作品だからこその魅力にあふれている。私立の美術館だけど、良い仕事をしていると思う。
言うまでもないけれど、常設展示されているイタリアの現代具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの作品も見応えがあるし、美術館の背後に広がる美しい庭園と彫刻作品も魅力的である。たまには、こういう空間で魂の洗濯をするのも悪くない。