「さまよえる絵画」展@板橋区立美術館
板橋区立美術館で開催されている「さまよえる絵筆ー東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展を観る。
1930年代後半の日本。戦時下の前衛画家に対する弾圧が強まる中、東洋・西洋の伝統立ち返って、西洋古典絵画に回帰したり、あるいは埴輪や仏像などの日本の古典に回帰したりした前衛画家たち。あるいは、日本の地方風俗に目を向け、そこからあらたな表現を模索した画家たち。
この企画展は、こうした戦時下の前衛画家たちを、美術文化協会、自由美術家協会、新人画会などの活動を紹介しながら辿っていく。カタログもみすず書房から「さまよえる絵筆」として刊行されている。内容も充実。良い企画展だと思う。
僕は、松本竣介や福田一郎、靉光、麻生三郎などの作品は大好きだし、北脇昇のシュール・レアリズムの作品群もその聡明さと明澄さに心惹かれる。やはり日本の近代絵画は日本画も洋画も面白い。西洋の技法を貪欲に吸収しながらも独自の世界を切り拓いていった創造的営みには頭が下がる。
今回の展覧会では、杉全直と寺田政明の作品が新鮮だった。深い闇の中から立ち上がるような柔らかい光。写実的だけど幻想的で、心に染み入った。こういう作品をもっと「発見」していかなければと思う。
それから、東北地方の村々を訪ねて膨大な記録を残した吉井忠の「東北記」シリーズ。洋画家としてシュール・リアリズムに傾倒した画家が、東北の風土や文化に関心を持つようになり、農民や女性を描くようになる。その活き活きとしたデッサンが素晴らしい。彼の作品はもっと観てみたい気がした。
それにしても、板橋区立美術館、練馬区立美術館、目黒区立美術館、世田谷区立美術館と、区立美術館は良い展覧会を企画していると思う。板橋区立美術館の場合は、池袋モンパルナス展とか、戦争の表象展など1930年代の近代洋画を扱った企画展が魅力的。やはり館蔵作品があるというのは強いし、区立美術館は、小規模で予算は少ないけれど自由があるような気がする。
表現の自由や独立が大きな問題になっている時に、国立系の美術館は、新型コロナを口実に入館料を引き上げ、受けを狙った企画展を連発してミュージアムショップで稼ごうという方向に走っている。彼らは、国立の文化施設に期待されている使命を理解しているのだろうか。こういう姿を見ていると、本当にこの国の文化はどうなるのだろうと心配になる。映画も同じ。民間のミニ・シアターが、大島渚特集、相米慎二特集、森崎東特集と、良質な特集上映を連発しているのに、ナショナル・フィルム・アーカイブは80年代の日本映画特集だからな。。。クール・ジャパンとか文化立国とかかけ声をかける前に、じっくりと腰を据えて芸術文化の育成に取り組むべきだと思う。