「肉筆浮世絵名品展ー歌麿、北斎、応為」@太田記念美術館

締め切りに追われ、打ち合わせが続き、雑用が続いた1週間がようやく終わったので、今日は何もしないと決めて、太田記念美術館の「肉筆浮世絵名品展」へ。
久しぶりの原宿は、大混雑。駅を歩くのも一苦労。もうすぐ駅の拡張工事が終了して少しは改善されるかもしれないけど、やはり異常だと思う。ただでさえ、日本人お登りさんが多いのに(失礼!)、これに外国人観光客が加わるので目も当てられない。
駅に着いた瞬間にどっと疲れるのをなんとか堪えて、美術館に向かう。途中で、「日本初のハリネズミ・カフェです。寛いで行ってください。」というお兄さんの呼び込みが聞こえてくる。「ハリネズミ・カフェ」。。。。あまり寛げそうにないような気がする。思わず、最近、再放送が始まった新世紀エヴァンゲリオンを思い出す。主人公の碇シンジは、「決して友達を作ることができない孤独なハリネズミ」という設定だったよな、確か。
太田記念美術館は、予想以上の雑踏。肉筆浮世絵展なんてマイナーな企画にこれだけ人が来るなんて、日本もまだまだ捨てたもんじゃない。結構、若い客層もいる。ものすごく熱心に舐めるように作品を見ている外国人もいる。なんというか、ある意味、熱気あふれる展覧会でした。実際、とても暑かった。。。
今回のお目当ては、北斎の肉筆画「雨中の虎」と、その娘応為の「吉原格子先之図」。共に、以前の北斎展で見ているけれど、やはり何度でも見たい。特に応為の作品は良い。江戸時代の浮世絵とは思えない光と影の交錯を描いた傑作。北斎と応為は、おそらく長崎の出島を通じて入ってきたオランダの絵画をなんらかの形で見ており、この表現方法をまねたと考えられている。たしかに、このオリジナリティはただ事ではない。格子越しに見える花魁の姿も画期的だけれども、画面手前の闇の表現、提灯に浮かび上がる光の空間、そして格子のすぐ側で外の客と何か話しているシルエットだけの花魁の姿の神秘。時代を超越した傑作だと思う。
応為を知ったのは、杉浦日向子の「百日紅」を読んだから。あれもいい作品だった。娘の目を通じて描かれた北斎は、画狂人にふさわしい変人だったが、それよりも日常生活の中に、妖怪や死者の霊、さらには龍までもが登場する世界観が印象的だったし、描くことに憑かれつつも恋をし、火事の現場に理性を失う応為の人物像がとても魅力的だった。百日紅は、アニメにもなった。原作の世界に忠実ながらも、原恵一監督は意地を見せて、応為という魅力的な人物を鮮やかに描き出した。
さらに脱線すると、応為は朝井まかてが「眩(くらら)」という小説で取り上げており、宮崎あおい主演でドラマ化されている。こちらの方は、画狂人として死ぬまで絵の道を追求していった北斎と、父の圧倒的な才能を心から愛し、とても乗り越えることができないという屈折した想いを抱えながら父を支える応為の姿を描き、杉浦日向子が描いた幻想の江戸世界ではなく、より現実的な天才とその娘の物語になっていた。応為の恋と父の才能に対する屈折した想いにより重心が移ってしまったけれど、それはそれで良いと思う。北斎の死後、歴史から消えてしまった応為というとてつもない才能に対する温かな眼差しも好感が持てた。近年、応為の作品が再評価され、北斎のいくつかの作品は応為との共同作品だったという研究も出ている。彼女もまた、時代を突き抜けた才能だったんだと思う。
それにしても、江戸時代の浮世絵はすごい。特に肉筆画は見ていて時のたつのを忘れるぐらいに刺激的である。着物一つとっても、その色彩のバランス、様々に工夫が凝らされた意匠や紋様、そして簡潔ながらも躍動的な線。着物の裾からのぞく素足や襟首のエロチシズム。こんなに豊かで洗練された文化は、当時、世界的に見ても画期的だったに違いない。ジャポニズムとして、印象派の画家たちが熱狂したこともよく理解できる。堪能しました。

展覧会の後、国立新美術館の「ブタペスト展」をハシゴしようかな、と思ったけど、人混みに疲れたので、そのまま池袋へ。ジュンク堂のカフェでコーヒーを飲んで一服し、ちょっと店内を覗いてすぐに帰ろうと思ったんだけど、やはりジュンク堂に入ってしまうと誘惑に負けてしまう。ハマスホイの画集を手に取ったら、ついつい他にも買いたい本が出てきて気づいたら2時間ぐらい彷徨ってしまった。いとうせいこうレトロスペクティブ・シリーズ3冊、川上弘美「パスタマシーンの幽霊」、吉田秀和「グレングールド」、カフカ「訴訟」。やれやれ。まだ読んでない本が大量に自宅にあるというのに。。。
でも、これでも自制したのである。アンナ・カヴァンの新作「草地は緑に輝いて」、テッド・チャンの新作「息吹」、ジョン・ケージ「作曲家の告白」、磯崎憲一郎「金太郎飴」、光文社新書「アート・テロリスト」・・・・。レヴィ=ストロースの「我らみな食人種」も読みたいし、最近はなぜかスーザン・ソンタグが気になっている。もちろん、ブランショやレヴィナスももっと読みたい。でも、金も時間もスペースも足りなすぎる。おかしい、10代の頃と状況がほとんど変わっていないじゃないか!でも多分、僕はこうやって年老いていくんだろうな。。。
帰宅して、ワインを飲みながら、BSで最近録画したヒッチコック監督の「バルカン超特急」を見る。イギリス時代のヒッチコック映画特集は、過去、何度かあったので見ているかと思っていたけど、初めてでした。面白い。でも詳細はまた後日に。。。疲れたので寝ます。