川上弘美著「パスタマシーンの幽霊」

川上弘美さんが雑誌「クウネル」に連載していた掌編をまとめたもの。食べ物と、ちょっと変わった人やモノ(時には幽霊や異世界の住人)と、どうも男運の悪い女性たち(大体において、登場人物は失恋したり独り身だったりする)をめぐるとてもとてもささやかではかない物語の断片。

こういうのを書かせたら川上さんは無敵である。ふわふわふわっとした言葉に乗せられて、あれあれあれって言っているうちに、とんでもないところに連れて行かれたりする。油断ならない。

もちろん、川上さんの長編もすごいと思う。最近の「大きな鳥にさらわれないよう」にしても、「」にしても、文学とかSFとかいうジャンルを無効にするように大きな物語を紡いでしまった。正直、川上さんは時空を超えて飛翔する語り手になってしまっている。

でも、そういう長編作家の川上さんと、掌編作家の川上さんは、とてもうまく同居しているような気がする。というか、川上さんの中では、マクロとミクロが切り替わったりするのではなく、一つづきになっているような感じ。なんだか仙女のような人だと思う。

で、パスタマシーンの幽霊。表題作は、その名の通り、パスタマシーンに取り付いた幽霊が私のもとにやってくるお話。全然怖くない。むしろ可愛い。でも、お話を読んでいると、日常生活にふと亀裂が入るようでひやりとさせられる。

それは、一番最初に持ってきた「海石」という掌編も同じ。海に住む生き物が人間になって「海石(いくり)」という名前をもらってしばらく地上生活をして仲間を見つけてまた海に戻ると言う長い物語をわずか7ページで描いてしまった。こんなことは普通の作家にはできない。そもそも、「海石(いくり)」という言葉の手触りがとても心地よい。川上さんの小説は、読んで、触って、味わって、全身で楽しめるような気がする。

ささやかでひっそりとしているけれど、心地よく読みふけることができる掌編集でした。個人的には、後半の女性の失恋話よりも、前半の怪異ものの方が好きだけど、まあ、「クウネル」の編集方針とか色々あったんだろうな。。。

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