宮内悠介「カブールの園」
宮内悠介の「カブールの園」を読む。SFだと思って購入したら、SF色はほとんどなく、むしろ日系人のアイデンティティの葛藤を正面から描いた作品だった。だから三島賞受賞作なんですね。読み終わってから気づく間抜けな私。。。
宮内悠介の作品は、「ヨハネスブルグの天使たち」を読んで以来のつきあい。「ヨハネスブルグ・・」は連作短編小説集で、物語を横断して登場するヒューマノイド型ロボットが印象的だった。特に、表題作のロボット。永遠に落下を繰り返すヒューマノイド型ロボットを救うために住民が立ち上がるという奇抜な発想に新しさを感じたし、このヒューマノイド型ロボットが徐々に独自の意識を持ち始めるという物語も好感が持てた。
その後、「アメリカ最後の実験」、「彼女がエスパーだった頃」と読み継いで。この「カブールの園」。読んでいて既視感を感じたのは、登場人物のキャラクターとか、会話のノリとか、リミックス系音楽が主題になっているところとかが、「アメリカ最後の実験」とよく似ていたから。「アメリカ・・」も、日系人の男の子の話だったし、父親を探して謎の音源を探す話だった。
解説を読むと、宮内悠介自身も、子供の頃にアメリカに住んでいたらしい。言葉が通じない世界での孤独や葛藤は、この実体験にあるんだろうな。。。肌の色によって差別され、言葉が通じなくて孤独をかこつという物語は、アメリカでは繰り返し語られてきたわけだけど、その物語が現代日本で日本語で書かれる必然性がよく理解できない。その上、この作品が、アメリカナイゼーションと日米安全保障条約の下で骨抜きにされた祖国への憂国の念から自決に至った作家の名を冠した賞を受賞するということも、自分の中でうまく整理できない。でもまあ、悪い作品ではないよね。
個人的には、主人公が開発しているクラウド型のリミックス・ソフトが印象的だった。このソフトでイタリアのチェリストとパレスチナのDJが協力して作曲するというアイディア、結構かっこいいと思う。もしかして、すでに誰かが開発しているかもしれないけど。