セルジオ・コルブッチ監督「ミネソタ無頼」

一仕事終わったので、ご褒美にBS録画の「ミネソタ無頼」を観る。我ながら慎ましいご褒美だと苦笑。でもまあ、セルジオ・コルブッチ監督だから悪くはない。

セルジオ・コルブッチ監督の名前を意識したのは、タランティーノの「ジャンゴ 繋がれざる者」を観てから。タランティーノの作品は、例によって暴力シーンが強烈で、しかも奴隷制度を徹底的に批判しつつ人種差別的な発言がオンパレードの刺激的な作品だった。で、タランティーノがこの映画をコルブッチ監督の「Django(邦題、続・荒野の用心棒)」に捧げているので気になっていた。何しろ、コルブッチ監督の作品なんてほとんど日本では観る機会がないから。

こういう時、BSシネマはきちっとフォローしてくれる。ちょうど、「続・荒野の用心棒」が日本でリバイバル上映されるタイミングにあわせてほぼ同時期に製作された「ミネソタ無頼」を放映してくれた。BSシネマの担当チームが何人いるか知らないけど、映画好きとしてはリスペクトしたい良いチームだと思います。

閑話休題、「ミネソタ無頼」も、良い映画でした。物語は、無実の罪で投獄された早撃ちのミネソタ・クレイが、機会を捕らえて脱獄し、彼の無実を証言できる唯一の知り合いのフォックスを探しに街に戻るところから始まる。フォックスとは、20年近い付き合いだが、悪辣な彼が保安官になって街を牛耳っていることを知り、クレイは愕然とする。フォックスの一党は保安官の身分を利用して暴虐の限りを尽くし、さらに「将軍」に率いられるメキシコ人の盗賊団も加わって、クレイ、フォックス、将軍の三つ巴の戦いが切って落とされる。果たして、クレイは生き残って無実を証明することができるのか、フォックスがクレイを裏切った背景はなんだったのか。。。

マカロニ・ウェスタンの香りがぷんぷんする映画である。登場人物が、皆、何ヶ月も風呂に入っていない様子であぶらぎった顔をしている。人を殺すのを何とも思わず、暴力の限りを尽くすことに限りない喜びを感じる悪党たち。裏切りを何とも思わない情婦たち。隠された血の系譜・・・・。セルジオ・コルブッチ監督が、当時、マカロニ・ウェスタンの監督として批評家から全く評価されなかったことも理解できる気はする。ストーリーだけ見れば、たしかにちょっと観る気はしない。

そういう意味で、タランティーノは偉大だと思う。よく、膨大なマカロニ・ウェスタンの中からコルブッチ監督を拾い出したなと感動する。実際、この映画を見ていると、冒頭の刑務所における強制労働の場面から、脱獄、荒野の逃走、悪党たちとの遭遇・・・とテンポよく進んでいく。画面にたるみがないし、映像にリアリティがある。流麗なカメラワークと、ちょっとしたオブジェを近景に配したロー・ポジションのショットがいいリズムを作っている。うまい。

それと、馬の撮り方がすごい。馬が出て来るだけで、あ、コルブッチ監督は、フォード監督やホークス監督をきちっと見てるんだろうな、と感じる。荒野を一気に駆け抜ける疾走感、あるいは強盗が馬を撃って幌馬車を止める時の衝撃、暴走する場所に乗った美女・・・。馬が絡んだ瞬間に画面が活性化する。それに、普通に荒野を馬で移動するだけでも、馬の足並みをわざと上下に激しく動かして画面に強度を与えている。黒澤も真似をしたという、疾走する馬の足元に舞い上がるフォード的な砂煙も見事。

しかし、この映画の本当に凄いところは、最後の決闘シーン。ミネソタ・クレイは凄腕の早撃ちガンマンだが、視力が弱っていて失明寸前という設定である。そんなクレイが、メキシコ人強盗団との戦いで傷つき、さらにフォックスの一党から拷問されてぼろぼろになり、ほとんど目が見えなくなった状態で、暗闇の中、音だけを頼りに一人一人敵を倒していく場面は本当にスリリングである。深い闇の中、クレーの主観ショットは、彼の視力の衰えにあわせてぼやけ、二重になる。しかも舞台は、ほとんど光のない暗闇の世界。観客も何が起こっているのか正確に理解できないまま、敵は次から次へと倒されていく。こんな実験的なことを60年代のマカロニ・ウェスタンでやっていたんだ!と見ていて嬉しくなる。

映画史的にみても、60年代というのは面白い時代なんでしょう。この世代の監督たちは、30年代に活躍した巨匠の作品を見て育ち、おそらくは戦後になって自覚的に映画監督としてのキャリアを追求し始めた世代。ところが、キャリア開始とほぼ同時にテレビの登場で映画は娯楽の王様の座を奪われる。低予算、テレビとの対抗、という悪条件の中で、作家性を追求しようとする時、こういう特異な映像表現が出てくるんだと思う。しかも、60年代は学生運動が吹き荒れて体制にノーを突きつける市民運動が世界中に拡散していた。実際、セルジオ・コルブッチ監督は共産主義者だったとのこと。確かに彼の作品の批評性や実験的な表現には当時の左翼知識人のテイストがある。

こうなると、「続・荒野の用心棒」も観に行きたくなるんだよね。あと、快作の誉れが高い「殺しが静かにやって来る」もどこかでリバイバルしないかな。。。

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