ビー・ガン監督「ロング・デイズ・ジャーニー:この世の涯へ」
ビー・ガン監督「ロングデイズ・ジャーニー:この世の涯へ」を観る。長編2作目でカンヌ国際映画祭のある視点部門に出品、世界中の映画人から絶賛を浴びた若い才能の作品ということで映画館に駆けつけました。
確かに凄い才能です。この映画の話題は、後半60分間の3Dによるワンシーン・ワンショット。主演男優が劇中でメガネをかけるのにあわせて観客も3Dメガネをかけると同時に、2Dから3Dに切り替わります。この後の、迷路を彷徨うような夢幻的な感覚はユニークでした。
それ以上に、映画の前半部分の時制を横断するような断片的なエピソードの積み重ねが効果的です。父親が死んで故郷に戻ってきた男が、ヤクザに殺された旧友や自分を捨てて駆け落ちした母親の記憶を辿りながら、友人の死の鍵を握るヤクザの愛人と出会い、運命的な愛に陥るという物語。
強烈な赤い画面に、緑の本、緑の服の女が揺れ動いて主人公を導いていく。タルコフスキーのストーカー、ノスタルジア、鏡を想起させる水浸しの廃墟のような空間や室内に降り注ぐ雨。ウォン・カーウェイの欲望の翼や恋する惑星を思わせる強烈な色彩感覚とノスタルジックな音楽。すべての場面が、過去の映画的記憶を呼び覚ますような懐かしさとフォトジェニックな魅力に溢れていながら、ビー・ガン監督のオリジナルな世界も感じさせる不思議な映像世界でした。これは、確かに世界中のクリエイターが絶賛するわけですね。
映像だけではなく、ストーリー・テリングのうまさにも舌を巻きました。現在と過去が交錯し、徐々に因果関係が揺らいでいって、今、スクリーン状に展開されている物語が、いつのものなのか、そもそも現実なのか男の夢の世界なのかが分からなくなってきます。この迷宮感。そして、運命の女、母親、ゆきずりの女・・・と様々な女たちを追うように男は彷徨を重ねていきます。そこに、手紙や時計や古い写真などの小道具が、謎を解く鍵のように、あるいは謎をそのものをさらに深めていくかのように登場してきます。
これは面白い。4月には、初長編作品の「凱里ブルース」も日本で公開される予定とのこと。こちらも楽しみですね。