ラオール・ウォルシュ監督「遠い喇叭」

BSで録画していたラオール・ウォルシュ監督の「遠い喇叭」を観る。名匠ラオール・ウォルシュ、学生時代に見た「ハイ・シェラ」の強烈な印象がいまだに残っているけれど、なかなか観る機会がないので、BSシネマで取り上げてくれるのは本当にありがたい。

物語は、一人の若き将校をめぐって展開される。ウェストポイントの陸軍士官学校を卒業したての若い将校が、メキシコ国境に近い辺境の砦に着任する。彼は、士官学校でアパッチ掃討作戦を指揮した将軍の薫陶を受け、理想に燃えて着任するが、兵士の士気は低く、アパッチ掃討などには程遠い状況にある。彼は、兵士を再訓練して改革に乗り出すが、そこに将軍やその姪のフィアンセがやってくる。さらに、アパッチが国境を超えて侵入してきて。。。。

ラオール・ウォルシュというベテラン監督の手腕を見せつけられる傑作である。とにかくテンポが早い。一つの映画の中で、これだけのものがが詰め込めるのかと驚くぐらい、様々なエピソードが展開される。砦を食い物にする悪徳商人、人妻との恋、残虐なアパッチの襲撃、フィアンセと人妻の間で揺れる想い、堕落した兵士たち、斥候として協力してくれる元アパッチの族長との友情、将軍の薫陶、アパッチとの戦闘、アパッチの尊厳を蔑ろにしようとする軍機構や政治家への反発・・・。ストーリー展開に全く違和感がなく、すべてが緊密に絡み合っていて、しかも豊かな広がりを見せている。たぶん、同じ設定でジョン・フォードが監督したら、もっとヒューマニズムにあふれるものになると思うけれど、ラオール・ウォルシュ監督は、そこに人間関係の打算や駆け引き、組織内のポリティックスなどを乾いた視点で組み込んでいく。それがとても新鮮で面白い。

圧巻は、アパッチとの戦闘シーン。ラオール・ウォルシュ監督は、まるで軍師のように、広い空間に騎兵隊とアパッチを対峙させ、これを縦横無尽に移動させる。凡庸な映画監督であれば、すぐに混戦状態に持ち込んで場面の強度を高めようとするけれど、ラオール・ウォルシュ監督はあくまでも一つ引いた視点から、全体の戦局の推移を視覚的に提示する。しかも、窪地や林、小高い丘やなど、複雑な地形を思いっきり活用する。観ている私たちにも地形の配置やこれを活用した戦闘の駆け引きがしっかりと伝わってくる。そして、敵の背後の山!「ハイ・シエラ」でもそうだけど、ラオール・ウォルシュ監督は、高低差のある二つの場所を切り返しながら、この空間関係から生じる緊張感が本当に好きなようだ。これだけ空間感覚が明確な人も少ないと思う。この戦闘場面だけでも観る価値がある。

映画は最後、アパッチの処遇をめぐる米国政府の批判へと展開していく。1964年のこの作品にも、確実に当時の公民権運動の影響が感じられる。西部劇というジャンルそのものが終焉を迎えつつあった中、出会いと別れ、友情、恋、そしてポリティックスまでを盛り込むことができる豊かな世界であることを再認識させてくれる傑作である。

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