ジョン・スタージェス監督「さらばバルデス」

ジョン・スタージェス監督の「さらばバルデス」を観る。1973年の作品。主演は、チャールズ・ブロンソン。

映画は、一人の放浪する少年の視点を通じて描かれる。少年は行くあてもない放浪の旅の途上、野生馬の群れと共に暮らし、時折、群れから馬を捕らえては、飼い馴らして街に売ることで生計を立てているチノ・バルデスと知り合い、彼の家で働くことになる。荒野の一軒家で一人、馬と共に暮らすバルデス。少年は、徐々に、彼の孤独だが自由な生き方に共感していく。

そんな中、バルデスは地主の妹と出会う。二人は徐々に惹かれあっていくが、地主の兄がそれを許すはずもなく、彼らはバルデスを痛めつけて、二度と妹に近づくなと脅す。そして。。。

イタリアで撮影されたにもかかわらず、映画には1973年のアメリカの時代の手触りが感じられる。劇中に流されるフォーク・ソング。ネイティブ・アメリカンのコミュニティが持つ、どこかヒッピーのコミューンにも似た世界から隔絶された平穏な世界。バルデスも、かつて放浪の旅に出、ネイティブ・アメリカンのコミュニティでも一時暮らしていたことがあった。少年もまた、バルデスと同じように放浪の旅を続けている。その姿もまたヒッピーの生き方を感じさせる。

とはいえ、この映画は、紛れもなくジョン・スタージェスの映画である。「老人と海」、「大脱走」、「墓石と決闘」、「シノーラ」、「鷲は舞いおりた」と、彼のフィルモグラフィーを見ていくと、そこにはなぜか失敗と挫折を運命付けられているにもかかわらず、その何かに立ち向かわざるを得ない孤独な男の姿が描かれる。全てが決定的に変容を遂げ、決して過去のノスタルジックなユートピアに戻ることができないことがわかっていながら、時代の変化というものに適応できず、時代にあらがってその何かを守り続けようとする男たち。

「さらばバルデス」では、それは自由に生きる美しい野生馬であり、野生馬と共にある自由な暮らしだった。しかし、バルデスが身分を超えた愛を貫き、新しい家庭を築こうとした時、それまでなんとか維持してきた微妙な均衡が崩れ、悲劇がもたらされる。ジョン・スタージェスの作品を見ていると、どうもこの決定的な喪失感を感じてしまう。ただ、それが単なる敗北ではなく、矜持と尊厳を貫こうとするところがジョン・スタージェス作品の魅力もであるのだけれど。。。

それにしても、他のジョン・スタージェス作品同様、馬が走る姿がただただ美しい。リーダーの雄馬に率いられて群れが荒野を駆け抜けていく姿の美しさ。あるいは、徐々に飼いならしてきた馬がバルデスと一体となって前後に移動し、さらに軽快にギャロップを始めるときの躍動感。人の手が入らない野生馬の群れの流れるような移動を見ているだけでも、この映画を観る価値がある。もちろん、リチャード・ブロンソンの無骨で無愛想なタフガイぶりも健在である。小品だけど良い作品だと思う。

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