アリーチェ・ロルヴァケル監督「幸福なラザロ」

幸福なラザロ」をレンタル・ビデオで借りてきて鑑賞。2018年のカンヌで脚本賞を受賞。マーティン・スコセッシが激賞したという話題作。

物語の舞台は、20世紀後半のイタリアの小さな村。侯爵夫人の小作人として貧しい生活を送る村人達を巡って展開する。実は、小作制度はとっくの昔に廃止されていたのだが、隔絶した村で過ごす彼らは侯爵夫人に騙され、いまだに小作人として侯爵夫人のために働いていた。その一人、ラザロには両親はおらず、お婆さんと一緒に暮らしている。なぜか村人はラザロに様々な雑用を言いつけてこき使っている。侯爵夫人の言葉を借りれば、「侯爵夫人は小作人を搾取し、小作人はラザロを搾取する」関係である。しかし、ラザロは不平一つ言わずに黙々と働いている。ある日、侯爵夫人の息子が村を訪れ、村人に小作人制度が廃止されたことを告げるため偽装誘拐事件を計画する。巻き込まれるラザロ。そして、村人は自分たちが騙されていたことに気づく。。。

1980年代初頭にイタリアで実際にあった事件に基づく話だそうだ。映画の前半は、貧しいけれど牧歌的な小作人の村人の生活を映し出す。それがとても美しく愛おしい。まるでエルマンノ・オルミの映画を見ているよう。イタリア・ネオ・リアリスモの古き良き伝統を感じさせる丁寧な画面作りには好感が持てる。それに、ラザロ役のアドリアーノ・タルディオーロの演技が素晴らしい。これが俳優デビューとのことだけど、小作人にこき使われながらも純粋さを失わない無垢な人物を圧倒的に演じきった。これだけでも見る価値がある。

映画は、後半、一転して現代資本主義の暴虐を描いていく。侯爵夫人の「彼らはここで幸福なのよ。小作人から解放されて都会に出て一体何になるの。もっと貧しい生活を送るだけよ。」という言葉が、呪いのように映画の後半を浸していく。この映画もまた、この1〜2年にカンヌ、ベルリン、ヴェネツィア、アカデミーなどの国際映画祭を席巻している格差社会を主題に取り上げた映画である。

同時に、監督は、物語に寓話を盛り込むことで、深刻な話になることを回避している。多分そこが、この映画が高く評価された理由なのだろう。牧歌的な農村から、厳しい現実が支配する都会へという物語は、ラザロをめぐる奇跡と無垢な行動により、おとぎ話へと変容を遂げていく。厳しい格差社会の現実にある種、道化師的に立ち向かうラザロの優しさは、世界を変えることができるのか?淡々とした描写の中にひっそりと挿入された不思議なエピソードによって、暗い主題が救われた作品になっている。

配給はキノフィルムズ。こういう海外の名作を是非これからも紹介して行って欲しい。

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