チャールズ・チャップリン監督「モダン・タイムズ」

Modern Times (1936) Directed by Charles Chaplin Shown: Charles Chaplin (as A factory worker)

新型コロナウィルスの感染拡大で緊急事態制限が出されてから約2週間。外出自粛で家に籠もっているのでついつい映画を見てしまう。BSシネマで放映されたチャップリンの「モダン・タイムズ」、すでに何度も見ている作品だし、そもそも公開以来、様々な人がこの映画の魅力について、あるいは資本主義や物質文明批判というテーマについて語っているので、今更という気がしつつもやっぱり最後まで見てしまう。

この映画については、何を言っても、今まで誰かが言っただろうことの繰り返しになってしまうような気がするけど、やっぱりすごい作品だと思う。

冒頭、豚の群れがオーバーラップして工場に向かう群衆に切り替わる場面から、最後、チャップリンとポーレット・ゴダードが長い道を二人で歩いていく場面まで、一部の隙もなく、涙あり、笑いあり、チャップリン初のトーキーによる歌と踊りあり、と楽しませてくれる。特に、最初の工場の場面の、非人間的な労働と食事!(ベルトコンベアーで働きながら食事ができるという奇妙な食事機械にチャーリーが酷い目に合うという歴史的な場面ですね)は、そのメッセージはともかく、とにかくチャップリンの運動能力の高さと動きの卓抜さに見入ってしまう。まさに超人!

そして、ポーレット・ゴダードの魅力。特に、登場場面が印象的。母親がわりに妹二人の世話をしながら、失業中のお父さんを励ます薄幸の美少女という設定なんだけど、登場場面は、なんとナイフ片手に船の上で巨大なバナナの束を切り裂いて、バナナを陸上に放り投げて子供たちに分けてやるという場面。裸足で、スカートはボロボロで、顔は垢だらけで髪はボサボサという野生児のような姿なんだけど、その生命力と躍動感がすごい。人に見つかって停泊している船の間をぴょんぴょんと飛び越えながら疾走する運動感も素晴らしい。そして、どんな姿をしていても輝きでる美しさ。「女優」を感じさせる人だと思う。

モダンタイムズの物語は、有名なのでここでは繰り返さないし、文明批評云々とか初のトーキー作品云々というのもスキップ。もちろん、大恐慌後の世相や労働運動への視点も、とりあえず置いておく(これも映画史的な事実だけど、この作品でチャップリンは「共産主義」シンパと疑われ、戦後、マッカーシーの赤狩りが吹き荒れるアメリカを去ることを余儀なくされた)。

今回、見直して感じたのは、これって、チャップリンの、ポーレット・ゴダードに対する熱烈な愛情表明だったのでは?ということでした。

この映画の基本テーマは、多分、「居場所」だと思うんですね。チャップリンは、最初、工場労働者として働いていたけど、その非人間性に精神を犯されて精神病院に送り込まれ、ようやく退院したらデモ隊に巻き込まれて刑務所に入れられてしまう。で、その刑務所の居心地がいいので、ずっといたいと思うんだけど模範囚で釈放されてしまう。職を転々とするけれどうまくいかず、刑務所に戻ろうとして無銭飲食をしてわざと捕まる。ようやく自分の居場所の刑務所に戻れる!と思ったところで、ポーレット・ゴダードと出会ってしまい、結局、彼女と逃亡。要するに、前半は、「居場所」を探しながら、どうしてもそこから追い出されてしまう独身者の物語です。

で、後半は、パートナーを得て、この「居場所」探しがさらに鮮明になります。最初は、幻想のマイホーム、ついでデパートの夜警(デパートでは人がいないのを幸いに、夜、二人で家具などを見て回るところが印象的!)、そして工場の技師となる。でも、トラブルを起こして失敗し、警察に拘置される。その間に、ポーレット・ゴダードは海辺に打ち捨てられた空き家を見つけ、二人は束の間の「マイホーム」を満喫する。結局、ポーレット・ゴダードがキャバレーの歌姫として成功し、チャップリンもウェイター兼芸人としてうまくいきそうになるのですが、それも束の間、家出少女として指名手配されていたポーレット・ゴダードを探しに来た刑事から逃れるために、二人はせっかくのキャバレーも後にすることになる。

後半の物語も、「居場所をどうしても見つけることができない」という主題を反復しているように見えます。でも、決定的に違うのは、最後の場面。チャップリンは、落ち込んでいるポーレット・ゴダードを励まし、「僕は、君のためなら仕事もマイホームもお金もいらない、ただ君と二人で一緒に暮らせればそこがどんなところでも自分たちの居場所なんだよ」と宣言して「居場所」探し自体を放棄します。そしてあの有名なラストシーン、自由を謳歌し、未来に希望を託して二人で長い道を歩き去る場面で幕を閉じます。

この場面、希望に満ちて歩き去る二人の姿が理屈抜きに感動的なのですが、これって、もしかしてチャーリーの熱烈な愛の告白?というのが、今回、僕が見た印象でした。なんだか、二人の愛情の純粋さに当てられた感じです。ラッシュを見終わった時のポーレット・ゴダードの感動は推して知るべし。。。

二人は、この後、「チャップリンの独裁者」で再び共演しますが、結局、離婚してしまいます。でも、「モダン・タイムズ」で描かれた二人の愛の世界は、チャップリンの人間離れしたスラップスティックな演技とともに、永遠に残ることでしょう。やはり名作は何度見ても新たな発見がありますね。

これも、全編を無料で見ることができるようです。良い時代になったものですね。

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