「画家が見たこども展」@三菱一号館美術館
緊急事態宣言がようやく解除され、予約制で人数制限があるものの展覧会が再開した。早速お目当ての展覧会に行く。まずは、三菱一号館美術館で開催中の「画家が見たこども展」。三菱一号館美術館は、日本でも有数のナビ派のコレクションがあり、これまでも度々、ナビ派をテーマにした展覧会を開催している。僕のようなナビ派大好き人間には、とてもありがたい美術館。
21世紀も20年が経ったというのに、いまだに僕の周りには「印象派」〜「後期印象派」でアートが止まっている人が多数いて、「ナビ派」と騒いでも関心を持ってくれないのだけど、私は「ナビ派」の人たちがとても気になる。それは、ゴーギャン的な色彩の実験ということではなく、むしろドニ的な信仰をいかに表象するかという関心からである。別に宗教にこだわる必要はない。ボナールが長い生涯にわたり追求したとても親密な空間と色彩。ただ自宅と家族(動物を含む)を黙々と描いているだけなのに、そこには画家と対象との親密な関係性がキャンバスに定着されており、さらにこの関係性に堆積している過去の記憶までもが描かれているように感じられる。
そもそも、「ナビ」とはヘブライ語で「預言者」を意味する言葉である。彼らの運動は、単なる美学的な運動と捉えるべきではなく、絵画における精神性をいかに定着させるかという観点から見られるべきである。実際、彼らの作品を見ていると、絵画とは、ただそこに描かれている形と色と主題だけに還元されない何か、描くという行為とその時間や空間までもが織り込まれている表現形態だという気がしてくる。だから人は、複製やカタログではなく、オリジナルの作品と対話するためにわざわざ美術館まで足を運ぶのだ。
今回の展覧会は、こうしたナビの運動を「こども」をキーワードに振り返ろうという試み。なぜ「こども」かというと、彼らは大人と異なる無垢さ、近代的な時空に捕らわれない自由闊達さを持った存在だからである。彼らは、まさにナビが追求した精神性を、純粋な形で体現する者たちだった。だから、ナビ派の画家達は、積極的に子供たちを描いた作品を残しており、その作品を見ることによってナビ派の探求を改めて振り返ろうというのが、今回の展覧会の趣旨。なかなか良い企画だと思う。
ドニ、ボナール、ヴァロットン、マイヨール、ヴュイヤール、ゴッホ、ゴーガン、カリエール、ルノワールと名作が続くけれど、個人的には、ボナールの作品をたっぷりと見ることができて大満足でした。特に、ボナールの晩年の作品、「雄牛とこども」「サーカスの馬」の2作が印象的です。親密派(アンティミスム)の画家と呼ばれたボナールが、無垢な存在としてのこどもと動物を同じ画面に描きこんだ大作は、ボナールの新たな一面を発見させてくれました。これだけでも見に行く価値ありです。
もともと、この展覧会は、フランスのボナール美術館が改修工事で閉館になることを機に、コレクションの海外貸し出しをすることから始まった企画とのこと。おかげで、僕たちは日本でボナールの作品に触れることができました。こんな素晴らしい展覧会を企画してくれた三菱一号館美術館のキュレーターに大感謝です。