マリオ・バーヴァ監督「血塗られた墓標」

「リサと悪魔」に続いて、マリオ・バーヴァ監督の「血塗られた墓標」を見る。1960年制作のイタリア・ホラー映画。主演のバーバラ・スティールの出世作でもある。確かに、この映画の彼女の美しさとたたずまいは圧倒的である。

物語は、17世紀バルカン地方の魔女狩りの場面から始まる。王女アーサ(=バーバラ・スティール)は魔術を行った罪に問われて残虐なやり方で処刑される。死の間際、アーサは実兄の兄とその一族を未来永劫、呪い続けてやるというおそろしい言葉を残した。

それから200年後、医師のクルヴァヤンとその助手ゴロベックが医学学会に出席するため馬車でモスクワに向かう途中、アクシデントに見舞われて立ち往生する。そばに古びた館があり、二人は誘われるかのようにその中に足を踏み入れる。そこは屋敷の墓所で、奥の石棺には女が横たわっていた。処刑された魔女アーサである。巨大なコウモリに襲われて慌ててその墓所を後にする2人。彼らは墓所の入り口で美しい娘と出会う。彼女は、カティアと名乗る。カティア(=バーバラ・スティールの二役)は、魔女アーサに呪われた一族の末裔だった。折しも、200年目となるその日は、100年に一度、アーサが復活し、一族の娘の命を奪う夜だった。。。

この作品も、現代のホラー映画を見慣れた観客の目には、恐怖感よりも文芸色豊かと言った方が良いだろう。おどろおどろしい屋敷、夜の墓場、謎めいた肖像画などなど、舞台装置は完璧である。特殊メークもそれなりに頑張っている。しかし、こうした小道具以上に、観客はただただバーバラ・スティールの凄惨とも言える美しさに打たれる。傷だらけの顔ですら美しいのだ。しかも、無垢な乙女と復讐に燃える魔女の二役を演じてもまったく違和感のない演技力。これはすごい。

ちなみに、黒沢清監督は、ホラー映画ベスト50の第16位にこの映画をあげている。面白いので引用しておこう。

同じバーバの「白い肌に狂う鞭」同様、全編通して異常にハイテンションな怪奇趣味で貫いた本作は好き嫌いのはっきり分かれる極めてマニアックな仕上がりになっている。しかしこの映画が寸でのところで芸術とか文芸とかいった言葉と無縁であれた理由は、ひとえに主演女優バーバラ・スチールのおかげである。まさに背筋の凍りつく官能。この矛盾した表現がバーバラ・スチールの肉体と共に顕在化する。

黒沢清「映画はおそろしい」

なるほど。。。。とは言え、屋敷に隠された秘密の通路とか、壁に掛けられた過去の一族の肖像画とか、双子の主題とか、マリオ・バーヴァ的アイテムは、この映画でもしっかりと息づいている。というか、これがオリジナルで、その後、バーヴァは数々のホラー映画作品で、こうしたテーマを繰り返し、さらに発展させていったんでしょう。

特に印象的だったのは、カティアが精気を吸われて徐々に老婆の姿へと変わっていく様子を顔のアップのままワンショットで捉えたシーン。今の特撮技術からはあたり前の技法だけど、1960年代にはオーバラップなしに顔が変容するのをワンショットで捉えることは難しかった(余談だけど、それを初めて特撮技術で実現したのがジョー・ダンテの「ハウリング」である)。たぶん、特殊な塗料を使い、ライティングの角度を微妙に変えることで徐々に顔に皺が浮かび上がるという手法を使ったのだろうと思うけれど、美しいバーバラ・スティールの顔が変容していく様子は何か現世を越えたものを感じました。これだけでも見る価値がある映画です。

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