ジョージ・シドニー監督「愛情物語」

BSで放映された「愛情物語」を観る。1956年の作品。監督は、「世紀の女王」、「錨を上げて」「アニーよ銃をとれ」「ショウ・ボート」などのミュージカル作品を手がけたジョージ・シドニー。出演は、タイロン・パワー、キム・ノヴァク、ヴィクトリア・ショウ他。キム・ノヴァクはどうもヒッチコックの「めまい」のイメージが強くて魔性の女に見えてしまうのだけど、ここでは自身のキャリアを追求しつつも夫を深く愛し支える貞淑な上流階級の娘を演じている。

映画は、1930年代から40年代に活躍した実在のピアニスト、エディ・デューチンの生涯を描いていく。ボストンで薬科大学を卒業したけれど、薬剤師になることを望む両親の反対を押し切ってピアニストになるべくニューヨークに移り、偶然であったキム・ノヴァク演ずるマージョリーの支援を受けつつ、ジャズ・ピアニストとして、さらに楽団の指揮者として名声を得ていくエディ。しかし、やがて不幸が彼を襲うことになる。。。。

前半の陽気な雰囲気が一転し、後半は暗い物語となる。実話だから仕方がないのかもしれないけど、次々とエディに不幸が襲いかかり、物語としてはつらいものがある。しかし、この映画の魅力は、そういう不幸な物語を補ってあまりある素晴らしい音楽の数々。クラシック、ビッグ・バンドからラテン・ジャズまで、素晴らしいナンバーが続く。すごいのは、タイロン・パワー自身が吹き替えなしで演奏しているところ。本当に音と合っているかどうかはともかく、その華麗で息をつかせぬ指使いには圧倒される。これはすごい。エディの子供役のルーも、子供とは思えない華麗な演奏を披露する。まさにミュージカル監督ジョージ・シドニーの真骨頂。

印象的な場面がある。失意の中で音楽を続けていく気力を失ったエディは、楽団を放棄して第二次世界大戦への従軍を志願する。何度、慰問公演を依頼されてもかたくなに固辞し続けるエディ。しかし、ある時、砲撃で破壊された街の一軒家にピアノを見つけてつい弾いてしまう。それを窓から現地の薄汚れた男の子が覗いて一心に聞き入っている。エディは、その子供をチューインガムで呼び入れ、単純なフレーズを弾かせる。そして、そのリズムに乗せてアドリブで曲を演奏し始める。その魅力的な旋律に人々が集まりはじめ、やがて廃屋はコンサート会場のようになる。その中で、ピアノなんて弾いたこともなかった子供の素朴な演奏にアドリブであわせて楽しげに演奏するエディ。そして、演奏終了後の大喝采と、子供のキス(もしかして日本人という設定?)。これを機に、エディは再び音楽に、そして自分の息子に向き合うようになる。。。。

文句なしに素晴らしい音楽によって、傷ついた心が癒やされ、再び前向きに生きる力を与えられる印象的な場面。音楽の力を実感しました。

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