小山聡子著「もののけの日本史」

9784121026194 もののけの日本史 死霊、幽霊、妖怪の1000年 小山聡子 著 中公新書 2020/11/24

小山聡子著「もののけの日本史:死霊、幽霊、妖怪の1000年」を読む。日本文学に登場する「もののけ」の分析を通して、「もののけ」概念がいかに変化してきたかを辿った本。

本書によると、古代の日本人は身体から抜け出た霊魂が往生できない場合に「モノノケ」となり、人びとに病や死をもたらすと考えていた。このため、貴族たちは、病気になると「モノノケ」を祓うための祈祷を行った。面白いのは、貴族に取り憑いた「モノノケ」をまずはヨリマシとなる童女や侍女に乗り移らせたあとに、彼らを隔離してお祓いを行ったという点。やはり、病気になったとは言え、貴族に直接祈祷をするのははばかられたと言うことか。。。このヨリマシたちは、祈祷により自分が誰の霊でどのような理由により貴族に取り憑いたかを語ったらしい。そして、誰の霊かが分かれば、それは、「モノノケ」ではなくなり、誰かの死霊(時には生き霊)と考えられた。こうなると、彼らを調伏するのではなく、成仏させるための祈祷に切り替えられるのが習わしだったという。平安貴族の霊魂観が分かって興味深い。

その後、時代が下るにつれて、こうしたモノノケは、人に祟る幽霊と混同されるようになり、さらに怪談話に取り上げられるようになって娯楽化する。明治以降の近代化で海外のゴーストストーリーが入ってくると、さらにモノノケは幽霊や怪異と混同されるようになり、現代にいたる・・・というのが本書の基本的な骨子である。

話しとしては面白いと思うけれど、分析の対象が基本的に文学作品のみなので、それが本当に人びとが信じていたことだったのか、それとも虚構だったのかの区別が曖昧である。近代の「モノノケ」観の証拠として、横溝正史の作品や水木しげるの作品を出してこられても、普通、これは作家の創作であり、一般の人びとがこうした妖怪やモノノケを信じていたとは考えないだろう。このあたり、かなり分析に無理があると感じた。筆者の専門は宗教史で、主に中世の浄土信仰や民間医療・呪術を研究しているようである。「モノノケ」を文学作品から読み取るという着眼は面白いけれど、少しウィングを広げすぎてしまったのかもしれない。

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