ロバート・アルドリッチ監督「ガン・ファイター」

BSで録画していたアルドリッチ監督の「ガンファイター」を観る。1961年の作品。主演はカーク・ダグラス、ロック・ハドソン、ドロシー・マローン、キャロル・リンレイ。原題は「The Last Sunset」で、この詩情あふれる映画のタイトルとしては、この方がこの作品をよく表していると思う。

物語の舞台は、メキシコのとある牧場。ブレンダン・オマーリー(=カーク・ダグラス)は、殺人の罪で国境を越えてメキシコに逃亡し、かつての恋人ベル・ブレッケンリッジ(=ドロシー・マローン)が住む牧場にやってくる。しかし、ベルは既に結婚し、16歳になる娘まで出来ていた。オマーリーは、ベルの夫で南軍の元将校ジョン・ブレッケンリッジに請われるまま、彼らと共にテキサスに1000頭の牛を連れて行く仕事を引き受ける。そこに、保安官ダナ・ストリブリング(=ロック・ハドソン)がオマーリーを追って現れる。彼は、妹の夫をオマーリーに殺されたため執念深く国境を越えてメキシコまでオマーリーを追ってきたのだ。オマーリーは、ストリブリングにカウボーイ頭になってテキサスまで行動を共にするよう誘う。ストリブリングは、オマーリーの真意を図りかねるが、国境を越えて米国に戻ったところで捕縛されるのであればとこの申し出を受けることにする。実は、オマーリーはベルのことが忘れられず、もう一度よりを戻したいと考えていたのだ。かくして、奇妙な旅が始まる。。。。

西部劇としては、不思議な映画である。物語の中心になるのは、ベルをめぐる男たちの対抗心。旅する間に、オマーリーだけでなく、ストリブリングもベルに心惹かれてしまう。さらにそこにベルの娘メリッサ(=キャロル・リンレイ)のオマーリーに対するほのかな恋心が絡み、人間関係は錯綜していく。西部劇を舞台に良くこんなドラマを展開すると妙なところで感心してしまう。

もちろん、西部劇だからネイティブ・アメリカンの襲来もあれば、悪党たちの裏切りもある。荒天で視界が悪くなった中、急に牛たちが暴走する場面は迫力がある。どさくさに紛れて女たちをかどわかして売り飛ばそうとする悪党たちをオマーリーとストリブリングが追跡する場面も緊迫感にあふれている。でも、映画のリズムもゆったりとしており、ロマンチックですらある。カーク・ダグラスが、かつてコロラドの酒場で一杯の酒のために詩作を行っていた頃の詩を月夜の夜に詠ったり、あるいはメキシコの砂漠になぜかセント・エルモの灯がともったりする。何度も挿入されるメキシコ人の牧童の歌と楽器が詩情をいっそうかき立てる。

細部では結構面白いことをやっている映画だと思う。たとえば、オマーリーとストリブリングが初めて対峙する場面。両者は、互いの存在に気づくとすかさず空を仰ぎ見て太陽の位置を確認し、馬を走らせる。最初、観ていて何が始まったのかよく理解できなかったけれど、二人のセリフから、互いに太陽をバックに相手に向き合おうと位置取りをしていたようだ。この発想は悪くない。

あるいは、長い旅が終わりを迎えるのを祝ってキャンプでパーティーを行う場面。皆が焚き火を囲んで歌い踊っている中、メリッサが黄色いドレスをまとって登場する。それまで、牧童と共に牛を追っていた少年のようなメリッサが、うっすらと化粧をして艶やかな姿で登場する場面が印象的である。しかも、その黄色いドレスは、母親のベルが16歳の時にオマーリーと出会った時に着ていたドレスと同じものなのだ。このアイディアも面白い。何より、男勝りのメリッサの見事な変身が忘れがたい。

とは言え、全体として観た時、この映画は混乱しているように見える。脚本がめちゃくちゃで、オマーリーという人間像が見えてこない。優しい心を持つ詩人でありながら、女たらしの無頼漢で人を殺すのをなんとも思っていない男?一体どういう人物なんだろう。しかも、そんな男に16歳のメリッサが心を寄せるのだ。これはいくら何でも無理がある。さらに映画の意外な結末もとってつけたような感じがある。そもそも、最後にオマーリーとストリブリングが決闘するまでの一連の画面も、夕方からいきなり真っ昼間に変わり、さらに二人の背景の空が青空から曇天に切り替えされてしまうのだ。現場は多分、大混乱だったんだろうな、と思う。

この映画は、カーク・ダグラスが自身のプロダクションで製作した映画である。アルドリッチはいわばお雇い監督だったわけだが、カーク・ダグラスとアルドリッチは、様々な面で対立したらしい。さすがのアルドリッチ監督も、プロデューサー兼主演男優には逆らえなかったのだろう。この結果が、無理に無理を重ねたシナリオと、つながらない画面によるクライマックスというのは少し悲しい。集団製作であることの映画の難しさがここにある。とは言え、細部にはいくらでも観るべきところがあるし、少なくともキャロル・リンレイの可憐な美しさは必見の価値がある。たぶん、BSシネマのプロデューサーも、「バニー・レークは行方不明」の彼女の神秘的な美しさに魅せられて、この作品を選んだんだろうな。彼女が主演する作品、もっと観てみたい気がする。

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