鏡リュウジ著「タロットの秘密」

鏡リュウジ「タロットの秘密」を読む。きっかけは、中村文則が朝日新聞に連載していた「カード師」の参考文献として引用されていたから。「カード師」は、中村文則の他の作品と同様、セックスと暴力と死と恐怖と闇社会を描いた小説だったけど、タロットカードが重要な役割を担って主人公の旅を導いていく。これを読んでいるうちにタロットカードについてもう少し詳しく調べたくなった。

鏡リュウジさんは、タロット占いだけでなく、占星術などにも造詣が深い。占いに関する著書多数で、翻訳も多い。さらにユングの研究者でもあり、日本トランスパーソナル学会の理事も務めている。だから、本書は、単なるタロット占いの紹介にとどまらず、タロットの歴史やカードの図像学的発展もしっかり押さえ、カバラーから薔薇十字団、魔術、カウンター・カルチャーからユング心理学までタロットを巡る神秘思想の推移までをコンパクトにまとめた入門書になっている。自身もタロット占いをしているにも関わらず、タロットカードの神秘化が進むのは19世紀末以降であって、それまでは未知の部分が多いと言え単なるプレー用のカードだったときちんと記述するところなど、とても好感が持てる本だった。新書でこの充実度はさすが。

とは言え、多分、鏡リュウジさんもタロット占いの力を信じていると思う。本書のあとがきで、鏡さんは、ユングが自伝の「自分は合理的な人格と、非合理的で神秘的な人格をいかに統合するかに苦闘してきた」という一節を引きながら、鏡リュウジさん自身もユングと同じような二面性があると語っている。冷静で合理的な自分は神秘性を剥ぐ方向でタロットの歴史を叙述する一方、もう一つの神秘的な世界に憧れる自分はタロットのハウツーを解説し、「タロットが人の心の内面を映し出すと仮定して、その意識のモードに入ることでタロットは使えるようになる」と続ける。人間における合理性と非合理性の対立と総合。個人的に、僕もユング心理学はフォローしてきているので、こういう考え方はとても共感できる。

それにしても、タロットの世界は深い。実証的な歴史研究が真剣に進められていると同時に、新たなカードがどんどん考案されている。その内容も、LGBTQ+からエスニック、フェミニズムと多岐にわたり、海外では日本の「カワイイ」カルチャー版が評価されているとのこと。これは面白い。もう少し真面目にタロットについて調べる気になりました。まずは、タロットカードを買って占いでも始めようかな。。。

余談だけど、この本を読んでいる時に、たまたまTwitterで「夢に澁澤龍彦が出てきてもっとペラダンを読みなさいと言われたんだけど、どなたかペラダンをご存じですか?」というツイートを目にした。ちょうど、カバラー薔薇十字団を創設したペラダンのエピソードを読み終え、タロットを日本に紹介した人物として澁澤龍彦と種村季弘の名前が出てきたところなのでちょっとびっくり。早速、そのツイートにコメントしたら、なんと鏡リュウジご本人がそのやりとりに参加!

毎日、膨大な量のツイートが流れていくTwitterの世界で、互いに顔も知らない3人がペラダン、カバラー薔薇十字団、タロット、澁澤龍彦をキーワードに一瞬つながってしまう。SNS時代は、こういうシンクロニシティが日常的に起きるようになったのですね。びっくりです。さて、このご縁が、これからどのように発展していくのか、楽しみです。

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