テレンス・ヤング監督「レッド・サン」

BSシネマでずっと前に録画しておいたテレンス・ヤング監督の「レッド・サン」を見直す。1971年の作品。フランス、イタリア、スペインの共同製作で、日本から三船敏郎、アメリカからチャールズ・ブロンソン、フランスからアラン・ドロンが参加している。いわば三大陸のスターが集結した映画。

この映画、三船プロがパラマウントにサムライを主役にした西部劇の企画を持ちかけたのが発端とのこと。東京オリンピックを成功させ、70年の万博を見据えて日本のサムライのイメージを国際的に展開しようという野心があったのだろうか。当時の日本は高度成長のまっただ中で勢いがあったけど、まだ第二次世界大戦の残虐行為や狂気以外のなにものでもないカミカゼ特攻隊のイメージは残っており、またエコノミック・アニマルのイメージや、日本製品=粗悪品というイメージが国際的に流通していた。そういうイメージをこの映画で払拭したいという思いもあったかもしれない。

この映画では、武士道や侍の倫理が肯定的に語られている。主君に忠義を尽くし、決してうろたえず、名誉を重んじる高潔な存在だ。逆に、欧州=アラン・ドロンは倫理など無視して自分の利益のみを追求する存在として提示される。金のためなら躊躇なく仲間を裏切り、人を殺す冷酷さを持つ一方で女にはだらしない。米国=チャールズ・ブロンソンは、最初、アラン・ドロンと行動していたが裏切られ、しぶしぶ日本=三船敏郎に付き合っているうちに、徐々に侍の精神性の高さに惹かれていき回心する。こんな風にまとめるととても図式的だけど、明らかに日の丸を意識しているレッド・サンというタイトルや、最後まで武士の姿で西部の荒野を疾走する三船の姿を見ていると、そんな気がしてくる。

テレンス・ヤング監督は、007シリーズで有名な職人監督のイメージが強かったけど、以前に「夜の訪問者」を観て少し関心を持った。チャールズ・ブロンソンの切れの良い動きや豪快なカー・アクション、あるいはサイコな犯罪者群像など、おっと思わせる演出を感じたから。でも、今回は、大スターばかりの国際共同製作のためか、あまり作家的な部分は追求せず手堅くまとめた印象。でも、なぜか映画の最後では、夜の訪問者と同じように、荒野に火が放たれる中、追う者と追われる者が死闘を繰りひろげる場面が展開する。彼は、荒野に燃え広がる火に何かこだわりでもあるのだろうか。。。

個人的には、たぶん小学生の頃にテレビ放映でずたずたにカットされた状態で観たこの映画を、オリジナル通りしっかり112分通して観ることができて良かった。あたり前だけど、テレビ放映版では、三船とチャールズ・ブロンソンが娼館で一夜を過ごす場面を最後まで見せなかった。まだ小学生だった頃の記憶だけど、僕は三船が娼館で風呂に入っている場面は覚えていた。その後、彼はどうしたんだろうと思っていたんだけど、今回、見直してみて、侍としてやるべきことはやったと言うことが分かりました。これが今回の収穫と言えば収穫かもしれません。

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