「篠田桃紅展ーとどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」@横浜そごう美術館

「ノマドランド」を観終わった後、横浜そごう美術館で開催されている「篠田桃紅展」へ。今年3月に107歳で亡くなった美術家、書家の回顧展。

独学で書を学び、50年代に単身、渡米してジャクソン・ポラックに代表される抽象表現主義に触れ、書から抽象画に転じた篠田桃紅。この展覧会は、彼女の創作の変遷をまとまって見ることができる貴重な展覧会だった。初期の草書を中心とした書が、徐々に抽象度を高めていき、訪米後は一気に抽象画に転換。一時は、本当にポラックのように、線が躍動的に踊る作品を制作していたけれど、徐々に画面は抽象化し、シンプルになっていく。やがて、作品は、金屏風や銀屏風に、金泥、銀泥で単純なフォルムを重ね、これに墨や朱で抽象的な線を加えるという作風に変わっていく。その感覚は、抽象画と言うよりも琳派の伝統を継承するもののように見える。朱が印象的だけど、時に緑の線が引かれると、琳派のテイストがさらに濃厚になる。

篠田桃紅さんは、欧米でも制作を続けていたけれど、墨という画材は乾いた気候にはあわず、結局、墨での制作を続けるために湿潤な気候の日本に戻ってきたとのこと。それは結局、自分の美意識を深めて日本の伝統に回帰することにもつながったようだ。後期の作品は、ほとんど同じモチーフを繰り返し扱っているようにも見えるが、反復の中の微妙な差異に篠田さんの創作の深まりを感じる。それは、墨という単色だけれども濃淡によって夢幻のバリエーションを示すことができる画材の特徴とも無関係ではないだろう。

印象的だったのは、後期に開始したリトグラフの作品。篠田さんが直接筆で原画を作成し、これをプロフェッショナルの版画家に依頼して製版していたとのこと。さらにできあがった版に篠田さんが筆で加筆して作品ができあがる。リトグラフ特有の繊細で陰影に富んだ形態と、筆の自由闊達な動きが組み合わさって独特の魅力ある表現に仕上がっていた。しかも、同じ版に多様な色彩とかたちの筆を加えることで、連作になっている。これは美しい。

ほぼ独学で書を学び、20代で書を教え始めて独立。40代で渡米して国際的に認められ、生涯にわたり制作を続けた彼女の、自立した自由な生きかたにも惹かれるものを感じた。展覧会で紹介されている彼女の創作や人生に関する断章にも、はっとさせられるものがある。エッセイストとしても活動した篠田さん。今度、まとめて彼女の文章を読んでみたい気がする。

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