大森立嗣監督「星の子」
大森立嗣監督の「星の子」を観にいく。今もっとも気になる大森監督の作品だから、これは外せない。それにしても、大森監督、着実に映画を撮り続けていますね。「日々是好日」がヒットしたけれど「タロウのバカ」は少しラディカルすぎたから、もしかしたらしばらく撮れないかなと心配していました。しかし、今年は「MOTHERマザー」と「星の子」の2本を公開。共に家族のあり方を描きつつも、手触りがまったく異なる作品に仕上がっているところが大森監督のうまいところだと思います。出演は、芦田愛菜、永瀬正敏、原田知世、高良健吾、黒木華、岡田将生他。主人公の芦田愛菜の存在感が光っています。
映画は、主人公のちひろ(=芦田愛菜)を巡って展開します。両親は、病弱だった幼少期のちひろを治療してくれたあやしい宗教を深く信じています。そんな両親に愛想を尽かして大好きな姉は家出してしまいますが、ちひろは両親となんとかうまくやっています。中学三年生のちひろは、新任のイケメン先生に一目惚れし、授業中に延々と彼の似顔絵を描き続けるほどの熱中ぶり。しかし、ある時、先生に怪しい儀式を公園で行っている両親を見られてしまいます。。。
あやしい宗教にはまってしまった両親、家出した姉、ちひろ自身もおじさん達から高校進学を機に家を出ることを勧められます。崩壊寸前の家族、両親との複雑な関係は大森立嗣がこれまでも取り上げてきた見捨てられた子供というテーマにつながります。しかし、今回、大森監督は家族を崩壊させたり、見捨てられた子供たちを放浪させたりしません。周りからどんなに奇異の目で見られても、ちひろは両親の元にとどまることを選択します。もしかしたら、大森監督は、「日々是好日」を撮ることで何か心境の変化があったのかもしれません。「日々是好日」で流れていたあの親密で穏やかな時間が、形を変えて「星の子」でも継続しているという印象があります。
これを支えるのが、永瀬正敏と原田知世の両親。普通の人だけど、ちょっとだけ変わっている夫婦を好演しています。そして、黒木華と高良健吾。二人は、新興宗教のリーダー的存在であり、ちひろも子供の頃から二人のことを慕っています。彼らの宗教は確かに怪しげな「水ビジネス」のように見えますが、例えば黒木華がちひろに向かって「あなたがここに来ることはずっと前から決まっていたことなのよ」と語りかける時、そこには何か通常の理解を超えた真実が含まれているような印象があります。大森監督は、新興宗教の活動にも、温かいまなざしを注いでおり、決して頭ごなしに否定しようとはしません。そこに好感が持てます。
15歳の芦田愛菜が、今この時にしか見せることが出来ない姿を映画は丁寧にすくい取っていきます。彼女のさりげない仕草や表情は、本当に等身大の中学三年生でありながら、決定的に女優としての存在感も発散させています。特に、彼女が歩く姿が美しい。ただ歩き、立ち止まり、人の話に耳を傾けるだけで絵になってしまう「女優」はなかなかいません。これからの成長が楽しみです。友人のなべちゃん(=新音)も良い味を出しています。中学校の教室や廊下、あるいは登下校の際の何気ない会話も心地よいリズム感で飽きさせません。
誰もが少しだけ社会からずれているけれど、だからこそそれが愛おしいと感じられる世界。大森監督は、また一つ新たな映画的世界を開拓したようです。