「天目−中国黒釉の美」展@大阪市立東洋陶磁美術館

「奇想」展を見た後、大阪市立東洋陶磁美術館に移動する。お目当ては、「天目―中国黒釉の美」展。僕は、あまり陶磁器には関心がないが、楽茶碗と天目茶碗は気になる。楽茶碗は、楽家代々の伝統と革新のありようとその独特のスタイルに、天目茶碗はまさに天目の妖しい光りに魅了される。全然スタイルは違うんだけど、あの小さな茶碗に宇宙を感じる。

天目茶碗とは、もともと中国の天目山一帯の寺院で用いられた天目山製の茶道具で、天目釉と呼ばれる鉄釉をかけて焼かれた陶器製の茶碗である。有名なものに曜変天目茶碗があり、南宋の時代の建窯で作成された。黒地茶碗の内側に星のように青い斑文が散らばり、時に玉虫色のような光を放つ姿は神秘的で、まさに宇宙が見えると言われている。しかも、現存する曜変天目茶碗は世界に4点しかなく、すべて日本にある。中国では製法が失われており、新たに作ることはできないという神秘的な作品である。僕は、藤田美術館所蔵のものとMiho Museum所蔵のものを見ている。後者の曜変は一部に限られているが、前者は素晴らしい美しさを堪能できる。文字どおり、この世のものとは思えない美しさをたたえている。

今回の展覧会は、残念ながら曜変天目はないけれど、国宝の油滴天目と重要文化財の木葉天目を見ることができる。ともに南宋時代の作品。油滴天目は、黒釉の地に銀色の油滴のような斑文がびっしりとつけられている。光の角度によって、その油滴が微妙に色彩を変えていく姿が美しい。陶磁器なのにガラス細工のような透明感があり神秘を感じる。木葉天目の方は、黒釉の地に金色の木の葉文様がつけられている。本物の木の葉を使い、細かい葉脈の一本一本までがくっきりと見える。これも繊細な美しさを感じさせる。器に自然を感じるという意味では、木葉天目の方がより日本人的な感性に近いのかもしれない。

国宝 油滴天目
重要文化財 木葉天目

それにしても、日本人の物持ちの良さには本当に頭が下がる。何度も戦乱があり、さらに第二次世界大戦の空襲もあったが、こうした戦火をくぐり抜け、持ち主を変えながらも、こうした貴重な品々が現代まで残されているというのは、よく考えるとすごいことだと思う。おかげさまで、僕のような平民でもこのような逸品を鑑賞することができる。

今回の展覧会では、これ以外にも中国黒釉の陶磁器と天目茶碗を展示していて飽きない。さらに、現代の陶芸家による天目茶碗の新作も展示している。やはり天目茶碗というのは陶芸家の創作欲を刺激するようだ。その中には、親子二代で曜変天目の再現に取り組んでいる九代目長江惣吉氏の「曜変」、フランス人のジャン・ジレル氏による「虹色の天目」や笹岡基三氏の様々な色彩による木葉天目など、美しい作品が並ぶ。これは見応えがある。

九代目長江惣吉 「曜変」 
ーー現代に甦った曜変天目の技術ーー
笹岡基三 木の葉天目茶碗

釉薬や窯の温度・焼き上げる時間などを緻密に分析し、試行錯誤を重ねるけれど、最終的には自然のプロセスに任せざるを得ない陶磁器。人為を極力排して自然のプロセスを最大限に尊重しようとする楽茶碗と、過去に失われた技術を蘇らせようと試行錯誤を重ねて究極の人工美にいたろうとする天目茶碗。対極にあるようだけど、完成したものにこの世のものとは思えない美が生まれるところが興味深い。火と土の邂逅が生み出す果てしなき美の世界。

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