マーティン・スコセッシ監督「ハスラー2」
BSシネマ、マーティン・スコセッシ監督「ハスラー2」。主演はポール・ニューマンとトム・クルーズ。この映画でポール・ニューマンはアカデミー主演男優賞を受賞。トム・クルーズは、「トップガン」でスターダムに登り始めた矢先の作品で、若さと才能あふれるアウトサイダーを気持ちよく演じている。この後、「カクテル」「レインマン」「7月4日に生まれて」・・・と主演作が続くから、トム・クルーズにとっても、ポール・ニューマンとの共演はいい勉強になったのだろう。
そして、もちろん監督のマーティン・スコセッシは、世界中のシネフィルが尊敬する映画監督であり、またクラシック映画のデジタル修復の最大のスポンサーでもある。「タクシー・ドライバー」でカンヌ映画祭パルム・ドールに輝き、世界のトップ監督の仲間入りを果たした。
「ハスラー2」は、ポール・ニューマンが主演した「ハスラー」の続編である。年老いてハスラーを引退していたニューマンが、若き天才トム・クルーズを見出して成功の夢を再び追求しようという物語。アトランティック・シティで開かれる大会に出場するため、彼らは車で旅を続け、途中、練習と称して行く先々のビリヤード上で賭けゲームを行い、資金を溜めていく。しかし、ポール・ニューマンは、気付いたらハスラーとしての血が騒ぎ始める・・・。
よくできたストーリーである。ハスラーの微妙な心理的駆け引きがうまく出ている。トム・クルーズのちょっとネジの外れた純粋さが、ポール・ニューマンの狡猾にも見えてしまうしたたかさとうまくコントラストされている。ポール・ニューマンのちょっと斜に構えた演技と酒や女にだらしない感じは本当にうまい。そして、トム・クルーズも、ヤンチャな感じがほんとによく出ている。キューをヌンチャクのように操ってクンフーの真似をしたりするところ、他の役者がやったら絶対に嘘っぽくなるけど、トム・クルーズがやると絵になってします。そして、アトランティック・シティに向かう道中!うらさびれたモーテル暮らしと場末の賭けビリヤード場の雰囲気がいい感じを出している。
でも、なぜか、僕はスコセッシ監督の演出に乗り切れない。なぜだろう?観念が先走っているというのだろうか。すべての場面が、きちんと説明されていて、ストーリーの進行の従属してしまっている。破綻がないけれど、これを突き抜けた感動がない。それは、83年の「キング・オブ・コメディ」でも、91年の「ケープ・フィアー」でも、あるいは「アビエイター」でも「シャターアイランド」でも感じたことである。いい脚本と恵まれたスタッフとキャスト。一部の隙もない演出。よくできているけど、ただそれだけ。うまく説明できないけれど、どうもスコセッシ監督は、きちんとストーリーを絵にしていくという作業を黙々とやっているだけのように感じてしまうのだ。
今回も、せっかくアトランティック・シティを舞台にしているのに、なぜスコセッシ監督は、この街の魅力ある風景を映画に取り込まずにいきなり大会に入ってしまうのだろう?ルイ・マル監督の「アトランティック・シティ」、あるいはアキ・カウリスマキ監督の「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」。そして、オーソン・ウェルズ監督の「市民ケーン」。アトランティック・シティは、映画的な感性を刺激するとても魅力的な場所である。それをただの大会開催都市として処理してしまうところが、僕にはどうしても物足りない。
ポール・ニューマン演じる年老いたハスラーが、トム・クルーズという天才と出会って、新たな夢に立ち上がる物語。それはいいお話だと思うけど、やはり映画好きはそれ以上を求めてしまうんですね。。。
とはいえ、マーティン・スコセッシ監督は、気になる監督です。時に「ギャング・オブ・ニューヨーク」のような不思議な手触りを持った作品をとってしまうところが彼の魅力。最近はNetflixオリジナル映画に移行しつつあるけど、まだまだ映画を撮り続けて欲しい人であります。