「古典×現代2020」展@国立新美術館

国立新美術館で「古典×現代2020 時空を越える日本のアート」を見る。もともとは、東京オリンピック2020の関連企画「日本博」の一環として実施され、東京オリンピックで来日した外国人に日本文化の魅力を発信するはずだった展覧会。新型コロナウィルスの感染拡大で東京オリンピックは中止となり、外国人観光客がほぼゼロになってしまったけれど、展覧会まで延期するわけにはいかないのでひっそりと開催されている。おかげで、僕らは広々とした空間でゆったりとアートを鑑賞できるから良かったんだけど。。。。

コンセプトは、タイトル通り。日本の伝統的な美をテーマに、現代アーチストたちがそれぞれの作品を同時に展示して、新旧の日本の美意識を比較し、伝統と創造について改めて考えようというもの。取り上げるのは、花鳥画、刀剣、仏像、円空佛、それに葛飾北斎、尾形乾山、曾我蕭白、仙厓義梵の作品群。浮世絵の巨匠から江戸の奇想絵画、禅画、琳派、そして工芸と民衆宗教と言う形で、バランスが取れるよう目配りされている。

圧倒的に魅力があるのは、ここでもやはり女性。

花鳥画にあわせて写真作品を展示した川内倫子さんの部屋が魅力的である。川内さんの作品は淡い色調の写真。花や、草木や、川や、子どもや日常の風景のふとした小さな断片が切り取られている。その何気ない景色がとても愛おしく感じられる。中には、胎児がまさに生まれ出ようとしている瞬間を捉えた写真もあってちょっとびっくりするけれど、淡い光の中で撮られた小さな写真なので、生理的な衝撃はあまり感じない。川内さんの視線によって切り取られた世界は、繊細でうつろいやすいはかなさをたたえている。でも、何かそのミクロな世界にマクロな宇宙が投影されているような不思議な感じがする。いつまでも見ていたい気持ちになり、その世界に入り込んでいる自分の中の優しい感情にはっとさせられる。そして、川内さんの写真作品を通して改めて花鳥画を見ると、江戸時代の画家たちが「写実」を通じて世界に迫ろうとしていたことが実感できる。題材が限定されているとは言え、花鳥風月を精密に描いていくことによって世界の真相に迫ろうという姿勢は、現代の作家に通じている。写真と花鳥画の組み合わせは意外だったけど、こうしてみると説得力がある。

そして、鴻池朋子さん。刀剣がテーマのはずだけど、アーティゾン美術館でのコラボと同じように、鴻池さんは、テーマにとらわれず想像力を飛翔させる。確かに、刀剣は生き物を殺す道具だから、獣の皮をキャンバスにした巨大な緞帳はテーマ的に関係があると言えなくもないけれど、何か日本刀の人工的な美を圧倒してしまうようなエネルギーが放出されているような作品である。人を殺す道具でありながら、武家社会の成熟の中で美術品へと変容してしまった日本刀をあざ笑うかのような圧倒的な生命力と色彩・造型。鴻池さんの作品は、いつものようにただそのそばに立っているだけで、身体の奥底がざわついてくるような力を持っている。素晴らしい。

こういうグループ展の楽しみのひとつは、知らなかったアーチストを発見できること。円空仏とコラボした棚田康司さんの一木づくりの彫刻、結構気に入りました。木の素材を活かしながら、生々しい生の感触を残した作品群。若い女性の繊細な造型に見とれました。田根剛の光の空間も素晴らしい。日光・月光菩薩を設置した部屋の照明を変えていくという作品なのですが、闇の中から浮かび上がる両菩薩像が、照明の変化に応じて微妙に表情を変えていくのがとても神秘的で、こんなアートもありなのかという発見がありました。

これに比べて、トリと大トリの2人の「巨匠」の作品は、どこか中途半端。北斎をテーマにしたしりあがり寿さんと、曾我蕭白をテーマにした横尾忠則さん。たぶん、主催者は、この二人を展覧会の目玉にすえているのだと思います。でも、なんだかいつもと同じような作品で、あまり面白くない。。。まあ、川内倫子さんや鴻池朋子さんのような、何かに憑依されたようなインパクトを持つ作品を見た後では、仕方がないのかもしれません。要するに、しりあがりさんも横尾さんも、北斎や曾我蕭白のパロディをやっているだけなんですよね。コンセプト的には面白いかもしれませんが、やっぱり世界やモノに対峙して何かを引き出してくる作品と並べられると、そのひ弱さが目につきます。そもそも、テーマとして取り上げた北斎や蕭白と比べても圧倒的につまらない。

ちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、そもそもの「日本博」というコンセプトや、五輪観光客を当て込んだ日本文化の発信という発想、そしてメインにある程度評価の定まったおじさんとおじいさんの作品を持ってくることで盛り上げようという戦略、この展覧会をめぐるもろもろの貧しさやつまらなさが、最後の二人の作品に集約されているような印象を持ちました。たぶん、そういうものすべてが、現在の日本社会の停滞そのものを象徴しているんですよね。日本には、もっとすごい才能がごろごろしているのに、それが活かされていない閉塞感。この展覧会は、そんなことを考えさせてくれる点でも、面白い企画でした。

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