アートを巡る旅 in 青森(4)十和田市現代美術館

青森のアートを巡る旅の締めくくりは十和田市現代美術館。SANAAメンバーの1人である西沢立衛さんの建築だけでも見たいと思いながら、なかなか行く機会がなかったので、今回は、じっくりと時間を取って見学する。

この美術館は、十和田市の官庁街と呼ばれる通りに建てられている。その名の通り、この通りには、市役所、消防署、交番、中央病院などの市の施設が建ち並んでいる。その真ん中、税務署跡地に建てられたこの美術館は、十和田市が現代アートに真剣にコミットすることを世界に向けて発信するシンボルのような存在でもある。

まずは、美術館前のアート広場を散策する。草間彌生さんの「愛はとこしえ十和田でうたう」、エルヴィン・ヴルムの「ファット・ハウス/ファット・カー」、R&Sie(n)の「ヒプノティック・チェンバー」などのユニークな作品が並ぶ。街の中にアートがあたり前のように展示されている空間。なんだかとてもわくわくしてくる。特に気に入ったのが「ヒプノティック・チェンバー」。人間の身体の中に入り、血管を流れる血や神経系統をイメージしながら、徐々に意識を体内へと集中させていくプロセスを、文字どおり、身体を模した構造物の中で、ビデオに導かれながら体感していく作品。アーチストは、トランスジェンダーで、Sie(n)の(n)は、作家が両性具有の存在であり、性を越境していく者であることを表している。これは面白い。

草間彌生「愛はとこしえ十和田でうたう」
エルヴィン・ヴルム「ファット・ハウス/ファット・カー」
R&Sie(n)「ヒプノティック・チェンバー」
「ヒプノティック・チェンバー」内部

美術館の周囲を巡る。ここにも、ユニークな作品が展示されている。美術館の壁面を飾る奈良美智さんの「夜露死苦ガール2012」。奈良さんは、青森のすべてのアートスペースに偏在しているような感じ。でも、違和感が全くない。世界を股にかけて活躍するアーチストにも、しっかりと土着的な風土があるんだろうな、と実感する。崔正和さんのフラワー・ホースも印象的。ほんとにこの人は、どこでも派手な装飾を通じて生命と死を象徴的に表現する。椿昇さんの「アッタ」も良い感じ。思えば、椿さんとの出会いは横浜トリエンナーレで出会った巨大バッタだったけど、その後も彼は一貫して巨大昆虫を作り続けている。理屈抜きで楽しい。

奈良美智「夜露死苦ガール」
崔正和「フラワー・ホース」
椿昇「アッタ」

こんな感じで、周囲をたっぷりと鑑賞した後で、美術館へ。現在、十和田市現代美術館では、「Arts Towada十周年記念」シリーズを開催している。僕が観たのは、「インター+プレイ」展第一期。お目当ては、最近、千葉市美術館で「非常にはっきりとわからない」展を開催して話題を呼んだ現代アートチーム「目」の作品。今回は、美術館を出て10分ほど歩いたところにある古いアパートの2階を使ったインスタレーション。アクリルのオブジェがただ設置されている。説明も何もないところが、「目」らしい。観ていると、人の目のようにも地球のようにも見えてくる。こういう風にこちらの想像力をかき立ててくれるところが現代アートの力だと感じる。

目「space」
「Space」外観

企画展でもう一つ印象的だったのは、鈴木康広さんの作品。リンゴと十和田市をモチーフにいろいろな物語が立ち上がってくるのを、ビデオ作品とイラストにまとめた作品。ビデオに映し出されるイメージが豊かな自然の移ろいと十和田という街の想像力をかき立ててくれる。

鈴木康広「はじまりの果実のためのドローイング」他

企画展を観た後は、常設のコレクションへ。ロン・ミュエクからスゥ・ドーホー、オノ・ヨーコに至る現代アートのスターたちの作品が集められている。これだけでも来る価値がある。

ロン・ミュエク「スタンディング・ウーマン」
スー・ドホー「コーズ・アンド・イフェクト」

今回の発見は、キム・チャンギャムの「メモリー・イン・ザ・ミラー」。題名の通り、姿見の鏡に映った人々の記憶を断片的に描いた作品。鏡の前に立ち止まる人は影で表されていて姿が見えず、鏡の中だけに現れる。鏡の中の空間は、時にアパートの一室になり、時にバーのような空間になり、さらには戸外へと出て行く。その中に映し出される人々も変わっていく。こんな風に、人々の記憶を鏡の中に再現することで、記憶の手触りとも言うべき感触をアートとして表現するのは新鮮だった。どうも僕は、記憶をテーマにした作品が気になるようだ。

キム・チャンギャム「メモリー・イン・ザ・ミラー」

最近、デヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」を観た後ということもあり、ハンス・オブ・デ・ピークの「ロケーション(5)」も印象的だった。暗闇の中のバーのような空間に入ると、窓の外にはトンネルのような風景が広がっている。窓の反対側は鏡のようになっていて、そのトンネルが映し出されている。ほとんど手元しか見えないぐらいに落とされた照明。部屋の奥には、公衆電話が置かれている。まさにデヴィッド・リンチ監督の描き出す悪夢のような空間に迷い込んだような作品。

ハンス・オブ・デ・ピーク「ロケーション(5)」

そして、栗林隆の「ザンプランド」。アザラシが覗いた海面の世界を実際にアザラシと同じように体験するというアートなんですが、不安定なテーブルの上の椅子に登って周りを見渡すという体験がわくわく感を募らせ、実際にのぞいた風景の神秘さに息をのむという刺激的な作品でした。

栗林隆「ザンプランド」

こうして、僕のアートを巡る青森の旅は終わりました。東京から、新幹線でわずか3時間の地に、これだけ充実したアート体験ができる場所が広がっているというのは本当に贅沢だと思います。今後、八戸市にも美術館が誕生し、青森アートミュージアム5館連携協議会が発足しました。ますます熱気を増す青森のアートシーン。都会では味わえない自然とコミュニティにに座したアートを体験できる貴重な存在だと思います。さらに、青森には、棟方志功記念館もありますし、寺山修司記念館もあります。アート好きなら一度はぜひ訪れてほしい場所だと思いました。

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