小川洋子著「ブラフマンの埋葬」

小川洋子「ブラフマンの埋葬」を読む。小川洋子さんの作品は初めて。彼女の作品は何度か手に取ったことがあるけれど、これまで読んだことがなかった。どの作品か忘れてしまったけれど、冒頭に、老婆が「呪いじゃ」とかなんとかいうセリフを吐くのを読んでそれが第一印象になってしまった。いくらなんでもこれはないでしょうと思ってしまったのが尾を引いて、これまで読まずに敬遠してきた次第。我ながら、変な所にこだわっていると思うけれど、小説って、やはり会話のリアリティは重要だと思う。

閑話休題。「ブラフマンの埋葬」は短いけれど印象的な作品でした。ある時、傷ついた小動物に出会った主人公が、その小動物を「ブラフマン」と名付けて、共に暮らす物語。主人公は、「創造者の家」の管理人をしている。ここは、世界中から招待された芸術家が滞在して創作活動に打ち込む場所。主人公の仕事は、芸術家たちが快適に創作活動に打ち込めるようお世話すること。いわゆるアーチスト・レジデンスの管理人。ただし、管理人だから、やることは掃除とか故障の修理とか、アーチストから依頼があった雑用をするだけという気楽な仕事。

ブラフマンは、主人公の世話で回復し、主人公と共に暮らすようになる。ブラフマンは泳ぎが大好きで、主人公に懐くようになる。主人公の暮らしはシンプルで、人付き合いも少ない。数少ない知り合いが、どうやら年上の男と関係を持っている同世代の少女や、墓碑銘を専門とする碑文彫刻師など。主人公は、彼らとのささやかな付き合いをこなしながら、ブラフマンとの日々を楽しく過ごしていく。しかしある日、事故が起きて。。。。

短編だけど、意外に色々なエピソードがあって楽しく読めました。小川洋子さんは物語の語り方が上手いなと思う。最低限のシチュエーションを提示したら、そのまま登場人物達がスムーズに物語を紡いでいく感じ。ちょっと意地悪な人たちも登場するけれど、それは悪とか罪とかにはつながらない。あくまでも抽象的な世界の中で、ある種、パラダイスのような幸福な時間が過ぎていき、やがて終焉を迎える。でも、それによって誰かが成長したり、人生不条理に気付いたりすることもない。ただ、透明で静かで穏やかな時間が流れていく。それは、見方によっては静かで誰にも邪魔されない世界であり、別の見方をすれば孤独で寂しい世界でもある。

小川洋子さんの作品世界が、今の人たちに受け入れられる理由が少し分かった気がした作品だった。第一印象に捕らわれず、もう少し彼女の作品を読んでみよう。

シェア!

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。