フランソワ・トリュフォー監督「終電車」

BSで録画したままになっていたフランソワ・トリュフォー監督の「終電車」を観る。1982年公開作品。出演は、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジェラール・ドパルデュー。撮影監督にネストール・アルメンドロスが入り、夜の室内における蝋燭の光の微妙な移ろいを撮影した画面が印象的な作品。この作品は、トリュフォー監督にとって最大のヒット作となり、セザール賞主要十部門を受賞した。僕はこの映画を公開当時に観ているはずなんだけど、ほとんど記憶が残っていない。今回見直してみても、全てが新鮮だった。映画の記憶ってあまり当てにならないですね。

映画の舞台は、ナチス占領下のパリ。女優マリオンは、南米に亡命した支配人兼演出家のユダヤ人の夫ルカに代わってモンマルトル劇場を経営している。マリオンは、新作「消えた女」を上演するために俳優のベルナールを迎え入れる。物資は欠乏し、ドイツ軍の検閲が厳しい中、新作の準備が進められていく。しかし、実はルカは南米に亡命せず、劇場の地下に潜んでいたのだった。。。

とにかく、この映画は繊細な照明設計の美しさが素晴らしい。戦時下で何度も繰り返される停電。その度に、画面は真っ暗になり、やがて灯りが点る。暗闇に浮かぶランプや蝋燭、そのわずかな光に浮かび上がる人の不安げな顔。映画における暗闇の美しさに改めて感じ入る。

あるいは劇場の舞台。こちらも限られた照明を工夫して映し出される様々な光の移ろいをカメラは的確に捉えていく。室内が中心なので画面は暗くなるのだが、それが全く気にならない。むしろ、明確なライティングによって俳優の顔の彫りが深いコントラストを形作ることで、より映画的な造型となっている。ネストール・アルメンドロスの撮影に酔いしれる。

物語は、他のトリュフォー監督の作品同様に、複雑に錯綜する男女関係をめぐって展開するだろう。その中心にいるのは言うまでもなくカトリーヌ・ドヌーヴ演じるマリオンである。夫ルカのために毎夜、地下室を訪問して食事を作り夫の国外脱出のために手を尽くすかいがいしい妻、困難な状況の中で時にドイツ軍の検閲と戦いながら新作の準備を進める経営者、そして主演女優として愛に生きる女を説得力ある演技で魅せる。やはり大女優だと思う。

ドイツ軍の権威をかさに検閲などに影響力を行使し、マリオンに手を出そうとする御用評論家や、闇ルートで様々な物資を調達してきて荒稼ぎするかと思うと劇場で盗みまで働く女など、戦時下のパリでおそらくいただろう多彩な人びとが描かれるのもこの映画の魅力。フランスで大ヒットした理由が分かる気がする。

ただ、基本的にドパルデューという役者がどうしても好きになれない僕には、最後でマリオンとベルナールが結ばれるのがあまりにも唐突すぎてあまり好きになれない映画である。トリュフォー監督の作品に登場する女性全般に言えることかもしれないけれど、マリオンの内面もよく分からない。女性は永遠の謎でしかなく、監督に出来ることと言えば、男女が倒れ込む時にその女優の脚をまさぐる男の手を映し出すことぐらいだという諦念を、もしかしたらトリュフォー監督は持っていたのかもしれない。最後の場面も、これ、ウッディ・アレンが「アニー・ホール」でやったじゃん、と少し突っ込みたくなりました。まあ、名作だとは思うけれど。。。

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