マーティン・リット監督「太陽の中の決闘」

BSシネマで録画していたマーティン・リット監督の「太陽の中の決闘」を観る。1967年の作品。出演はポール・ニューマン、フレデリック・マーチ、リチャード・ブーン他。社会派のマーティン・リット監督は、「長く熱い夜」から「ハッド」、「暴行」までポール・ニューマンと組んできて、これが最後のコンビ作となった。ポール・ニューマンが、冷静さの中に怒りと正義感を秘めた男を好演している。

物語の舞台は19世紀のアリゾナ州。アパッチに育てられた白人のジョン・ラッセル(=ポール・ニューマン)は、父親が亡くなり、下宿屋を彼に遺産として残したとの知らせを受ける。しかし、ラッセルは白人の街で暮らすつもりはなく、下宿屋をそっくり売り払ってその金で馬を飼うことにする。このため、下宿の管理人ジェシーは職を失い、住人たちも出て行くことを余儀なくされる。彼らは、そろって駅馬車に乗って街を離れようとするが、そこにアパッチの居留地で監督官をしていたアレクサンダー・ファイバー教授夫妻と乱暴者のグライムズが乗り込んできた。駅馬車は荒野に向かうが、途中で待ち伏せしていた強盗に襲われて。。。

この作品は、いわゆる西部劇の中でも歴史修正主義の作品として知られている。それ以前の西部劇が、残忍で情け容赦なく白人入植者たちを殺害し、女子供を誘拐する者たちとしてネイティブ・アメリカンを描いてきたことに、歴史修正主義者は異議を申し立てる。現実は、白人入植者たちが勝手にネイティブ・アメリカンの土地に住み着いて彼らを追い出した上に、何もない居留地に強制的に移住させ、彼らの生活を危機に陥れたというのが彼らの主張である。さらに、ネイティブ・アメリカンは白人社会の中で差別され、搾取された。こうした状況を描くのが、歴史修正主義の一連の作品群である。

「太陽の中の戦い」におけるジョン・ラッセルも、白人でありながらアパッチの居留地で育てられたことによって露骨に差別される。彼のクールな態度の背景には、こうした理不尽な扱いに対する冷めた怒りがある。口ではキリスト教における博愛を説き、お互いに助け合わなければいけないと言いながら、自らは決して手を汚さず、保身に走る白人たちに、彼は冷たい目を向ける。さらに、ファイバー教授がアパッチ居留地の監督官の地位を悪用してアパッチたちに支給する食糧の購入費を着服し、結果的にアパッチたちを飢餓に追い込んだ事実も明らかになる。それでも、ジョン・ラッセルは、怒りを爆発させることなく、自らなすべきことをなそうとする。それはヒロイズムと言うよりも、むしろ虚無的で投げやりな態度に見える。しかし、その奥には何か人間の本質的な善を信じたいという気持ちが込められているようにも感じられる。こういうニヒルな人物をやらせるとポール・ニューマンは本当にうまい。マーティン・リット監督が彼と何本も組んで映画を撮った理由がよく分かる気がする。

社会的メッセージ性が強い作品だけれど、この作品には他にも魅力がある。特に印象的なのは、斜面の撮り方。冒頭、ジョン・ラッセルが他のアパッチと共に野生馬の群れを捕まえようとする。馬の群れは、ジョン・ラッセルたちが待ち伏せしている泉まで急な斜面を降りてくる。まずはリーダーの黒馬が偵察し、危険がないことを確認した上で斜面の中腹にいる群れまで戻り、一群となって斜面を駆け下りてくる。野生馬の美しさ、そして斜面を駆け下りてくる馬たちの動きのダイナミズム。さらに、ジョン・ラッセルがふと視線をあげると、山の稜線に馬に乗った少年の姿が現れるという場面が加えられる。そのはるか高所を見上げる感覚がすばらしい。高低差をダイナミックに画面の中に導入することで独特の空間感覚を出そうとする演出は魅力的である。

この高低差を活用した演出は、その後、映画の中で何度も繰り返されるだろう。強盗の追跡を待ち伏せして反撃に出る時も、銃撃戦は急な斜面上で展開される。高低差のある中での戦いは、その後、廃校となった鉱山の斜面上にある小屋と麓の建物の間でも繰り返される。さらに、登場人物たちは、何度も坂道や急な斜面を登ったり降りたりさせられる。マーティン・リット監督は、憑かれたように画面内に高低差と斜面を導入する。この結果、対決の場面のカット割りに独特のタッチが生まれる。そこが面白い。

マーティン・リット監督は、その後も社会的メッセージの強い作品を撮り続けている。差別の中でボクサーとしてのキャリアを追求した黒人を描いた「ボクサー」、ある島で黒人たちを導こうとする教師を描いた「コンラック先生」、労働組合運動を描いた「ノーマ・レイ」・・・。50年代に共産党に関わり、このため赤狩りにあって一時はハリウッドを離れざるを得なかったという経歴を持つマーティン・リット監督は、多分筋金入りの社会派監督だったのだろう。でも、それが教条的にならず、映画としての魅力を持った作品に仕上げている点は好感が持てる。彼の作品は、同じくポール・ニューマンが主演している「ハッド」ぐらいしか観ていないけれど、「暴力波止場」や「寒い国から帰ったスパイ」、「コンラック先生」あたりは観てみたい気がした。

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