プロフェッショナル仕事の流儀 庵野秀明スペシャル

NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で「庵野秀明スペシャル」が放映された。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の制作に4年間密着取材した成果。道理でNHKは「エヴァンゲリオン新劇場版 序破Qの三部作」三部作の一挙上映とか、エヴァンゲリオン総選挙とかいろいろと企画をしていたわけだと納得。やはり4年間の密着取材をしたんだから、それなりに盛り上げないとね。

番組は、NHKプロフェッショナルのシリーズらしく、うまくまとめている。作品の生みの苦しみ、スタッフとの微妙な関係、完成に至るまでの紆余曲折、そして庵野秀明本人の生い立ちと創作の秘密・・・・。本棚からアニメの素材、ラフスケッチ、コンセプト・ノートなど、非常に多くのマテリアルにぼかしがかかっていたので、この番組が完成するまでには相当シビアなやりとりがあったのだろうと思われる。そもそも、庵野氏が「僕を映しても仕方がない。スタッフを映しなさい。」とNHK側のスタッフに指示を出し、ほとんどの質問はのらりくらりとはぐらかし、最後には、「プロフェッショナルっていう番組にタイトルが気に入らないんだよね」と捨て台詞を吐くのだから、多分、いろいろあったのだろう。。。とは言え、貴重な映像記録となっているのも事実である(大急ぎで付け加えておくと、映像に映し出された庵野氏は、終始、穏やかにカメラに向き合い、冷静に取材に応じていました。決して、険悪な感じはなかったのでくれぐれも誤解なきようお願いします。)。

今回の番組での最大の発見は、映画の前半で、わざわざセットを組んで俳優に演技させ、それをモーション・キャプチャーで取り込んでいたことが分かった点。日本家屋の部分なども、しっかりと役者に演技をさせ、そこにカメラを持ちこんで膨大なカメラ・アングルから画像を蓄積し、これに基づいてアニメ制作に入っている。脚本はあるけれども絵コンテは一切なしというユニークなスタイル。これに加えて、おそらく膨大な数の現実の風景の映像も記録されている。シン・エヴァ前半の風景のリアリティ、アングルの奇抜さ、動きの正確さの秘密はここにあったのかと納得。なるほど。前半のリアリティがあるから、中盤でのCGを駆使した空間的な躍動と、後半でのある種抽象的な空間がコントラストをなすようになっている。これは非常に面白い実験だと思う。

また、庵野さんが頻繁に「これだとつまらないよね」「自分の中にあるものを出すだけじゃダメなんだ」と発言し、スタッフに考えさせようとしているのも興味深かった。シン・エヴァの世界の緻密さや、これまでのアニメの常識を覆すような造型は、これまで培ってきたノウハウをいったん白紙に戻し、ゼロから何か新しいものを生み出していこうという努力のたまものだったのだ。

それから、パートナーの安野モモ子さんへのインタビューも興味深かった。自分の世話ができず、偏食ばかりする庵野さんの世話を一手に引き受け、さらに旧劇場版の制作が完了した時に鬱で壊れてしまった庵野さんに最後まで寄り添った彼女の存在は、シン・エヴァンゲリオンの誕生に大きな影響を与えたと思う。もちろん、彼女は、母親の役だけを引き受けたわけではない。例えば、安野さんが「彼は自分が可愛がられキャラだと分かっていて最後に許されると思ってるんだけど、そういうところもしっかりと見ています」という、ある種突き放した発言をするのを聞いていると、おそらくは安野モモ子さんが庵野さんにとってかけがえのなさゆえにしっかりと向き合わなければいけない他者の役割も果たしていたのだなと感じる。それは、ある種、自閉的で自己撞着的な庵野さんの作品世界に、外部の風を入れる重要な契機となったはずだ。たぶん、新劇場版で重要な役割を果たすようになり、シン・エヴァンゲリオンのラストでシンジと共にリアルの宇部新川駅へと出て行くマリは、濃厚に安野モモ子さんの姿が投影されているのだろう。

父親のことや、自殺しようかと追い詰められるほどの鬱になった時の話など、テレビ番組でそこまでさらけ出して良いのとこちらが心配になるほどプライベートなことを語る庵野さん。でも、同時に、なぜ今回密着取材に応じたのですかというインタビューアーの質問に答えて「ビジネスのためです。今の時代は神秘的なだけでは売れない。少しさらけ出した方が良い時代になってますよね」としたたかに回答する一面もある。外見は穏やかで、周りからは「子供のよう」と言われながらも、しっかり実業家の一面もあわせもつ複雑な人間像を垣間見ることができました。

実際、この番組は大きな反響を呼んだようです。例えば、こんな記事もでています。

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