カフカ著「訴訟」
カフカ「訴訟」読了。光文社古典新訳文庫、丘沢静也訳。面白い。もっと早く読んでいればよかった。。。
この物語は、わざわざ僕が紹介する必要もないぐらい有名だけど、とりあえず簡単に説明しておくと、ヨーゼフ.Kなる主人公(とある銀行の要職にある)が、ある朝、二人の監視人の訪問を受ける。彼らは、Kが裁判に訴えられていると伝えるが、Kには全く心当たりがない。そもそも、何の罪で、誰が訴えたのかもわからないまま、Kは裁判所に呼び出される。しかし、裁判所に行っても状況がよくわからず・・・・。まさにカフカ的な不条理の世界が展開されていきます。
カフカは池内紀編訳の「カフカ短編集」、「カフカ寓話集」、「変身・断食芸人」を読んだだけで、長編は「アメリカ」も「城」も「審判」も読んでこなかった。面白いだろうなとは思っていたけど、短編でも不条理さが少し辛いのに、これが長編になると大変じゃないか・・・と尻込みしてたんですよね。
でも、今回、新訳を読んで、そのイメージを一新。これは面白い。出てくるキャラクターは、叔父さん、下宿のおばさん、同じ下宿の令嬢、弁護士、画家、監視人、銀行のライバルの副頭取・・・とみんな一風変わっているし、裁判所の人たちも変。そもそも裁判制度も複雑怪奇。よくこんな世界を思いつくな、と改めてカフカの異能さに感動しました。
カフカは出版した一部の短編集を除いて、全ての原稿を自分の死後、焼却するように遺言したことは池内さんの著作で知っていました。遺稿はきちんと一冊の作品についてまとめられておらず、カフカ全集は、カフカの友人のブロートが勝手に遺稿をまとめて一冊の本にした「ブロート版」、その後研究者がカフカの遺稿にできるだけ忠実になるようにまとめた「批判版」、そしてカフカの遺稿そのものをすべてそのまま再現した「史的批判版」の3つがあります。
今回の翻訳がベースにしたのは、最新の「史的批判版」ですが、こういう形で提示されると、「訴訟」は単なる遺稿の断片で、一つの物語というよりも、ヨーゼフ・Kが訴えられて訴訟に巻き込まれた後の生活を様々な切り口で描いていった草稿集だということがよく分かります。草稿集だと言って面白くないというわけでは決してなく、むしろ一つの作品に纏まっていないために、個々の断片が独自の魅力を発散して、世界がより広がっているような感じ。特に、登場する女性たちが、蠱惑的で不可解で、時にヨーゼフ・Kを誘惑し、時には少女グループとなって苛み、時に思わせぶりな態度で心を惑わせるところは強烈でした。これは面白い!
読みながら、一つ一つの場面がとてもビジュアルで映画的だと感じたのですが、そういえば、オーソン・ウェルズがアンソニー・パーキンス主演で映画化していたことを思い出しました。予告編を見るだけでドキドキします。今度、ビデオを探してみてみよう。。。