ジョン・スタージェス監督「老人と海」

ジョン・スタージェス監督「老人と海」。言うまでもない、ヘミングウェイの名作の映画化。不漁が続く老漁師が巨大なカジキと格闘する物語。過酷な自然に対峙する人間の偉大さと無力さを描いた作品。いつものように、ジョン・スタージェス監督の主人公達は、時代錯誤とも言える頑固さで、無謀な試みに挑戦し、敗れ去っていく。敗北の美学。

とはいえ、この作品では、ジョン・スタージェス監督の宗教的なこだわりも感じられる。早朝、まだ日も明けぬ闇の中をランタンを持った無数の漁師達が村を出て漁に向かう。その姿には、労働の厳しさとこれに黙々と従事する人々の謹厳実直さがにじみ出ている。この場面は限りなく美しい。

また、激闘の末に仕留めたカジキをサメに食い荒らされ、骨ばかりになった状態での帰港を余儀なくされた老人が、疲れ果て、深夜一人、釣り道具とマストを抱えて自宅に向かっていく場面も印象的である。老人は4日間の激闘で心身ともに消耗しており、度々休むことを余儀なくされる。その歩く姿は、十字架を背負って歩くキリストの姿と二重写しになる。受難に耐えることはすなわちキリスト共にあることなのかも知れない。

ヘミングウェイのマッチョな世界を、キリスト教的な労働と神への対話の静謐な世界に移し替えたスタージェス監督の佳作である。

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