アートを巡る旅 in 京都(3)

京都の旅は、嵐山で一泊して二日目へ。久しぶりの京都なので、午前中は寺社巡り。

まずは世界遺産登録された天龍寺へ。臨済宗天龍寺派大本山。夢窓国師の庭園(曹源池)で有名。時間をかけてじっくりと庭を鑑賞する。まず、大方丈に座って庭を眺める。池に配置された築島と岩石。背景の築山。さらにその奥には借景で青山が広がっている。池の手前には丸石が敷き詰められ、形の良い松が一本植えられている。縁側に立って眺めても良いし、畳敷きに座って眺めても良い。多分、若い頃にはあまり良さが分からなかったと思うけれど、年を取ると、心を静めて庭を眺めるのが心地よい。まだ朝早いのに、既に何人も人が訪れて思い思いの場所に座って庭を眺めている。静かで心地よい時間が流れていく。

天龍寺庭園(曹源池)

それから庭に降りて、今度は築山を巡る。意外と傾斜のある小道を上る。様々な木々が植えられており、四季それぞれに楽しめるようになっている。地面は苔が敷き詰められていて、緑が目に心地よい。しめやかな空気と静寂に包まれて心がさらに静まっていく。日本人の智慧を感じる。四季の移ろいを感じながら、自然を楽しみ、それによって穏やかな心を育む。石で囲まれた簡素な空間で禁欲的な祈りと労働に励むキリスト教の修道院の生活も宗教的だけれども、こうした日本人の庭造りにもやはり宗教性はあるのだと思う。キリスト教が石の向こうに神を見いだすとすれば、日本人は細やかな自然の息吹の中に生命の根源的な流れを感知しようとしているのかもしれない。

さらに庭園を回っていくと、湧き水があり、観音像が祀られている。奥に水源があるらしく、そこから水を引いて池に流し込んでいる。湧き水の少しくぐもった音、渓流のささやかなせせらぎの音、水が奏でる音も表情が豊かである。どういう仕掛けになっているのか、場所によって、湧き水の音だけが聞こえたり、せせらぎの音だけが聞こえたりする。たぶん、何か考え事をしたり、気を取られていたりすると決して気づかないだろう音の風景。日本の庭園が、そこを散策する人の心を静め、自然に対して開かれ、交感していくよう誘導する仕掛けがこんなところにもある。よく出来ている。日本人が、日本庭園を通じていかに宗教心を育み、世界の成り立ちを思考したかを分析した哲学者がいた記憶がかすかに蘇ってくるけれど思い出せない。和辻哲郎とか九鬼周造あたりだと思うんだけど。。。帰ったら少し調べてみよう。

天龍寺にはもう一つ名所がある。加山又造が禅堂の天井に描いた龍の図である。モノクロで描かれた龍は直径9メートルの円相の中に巨大な身体をくねらせていて圧倒的な迫力がある。禅堂のどこから見ても龍の目がこちらを見ているように見える「八方睨み」の龍として知られている。1997年、加山又造の晩年の作品だけど、勢いがある。日本画にモダンな装飾性を取り入れ、圧倒的な色彩で日本画の伝統を刷新した巨匠が晩年にたどり着いたモノクロの世界。でも墨の濃淡を使い分けることで、雲や霞の表情は驚くほど細やかだ。匠の技を感じる。

天龍寺でのんびり過ごした後は、定番の嵐山巡り。パワースポットで売り出している野宮神社から竹の道を経て常寂光寺、二尊院と回る。野宮神社から竹の道界隈は、新型コロナウィルスで少し減ったとは言えすごい人の波。それを分けて観光客目当ての人力車が行き交う。これでコロナ前の外国人観光客がいた頃はどんな喧噪だったかと思うとぞっとする。人が戻らないうちに京都を観光しておくのも悪くないかもしれない。でもさすがに、常寂光寺や二尊院の中は訪れる観光客も少なく、時折、観光タクシーの運転手に案内されてくる少人数のグループ程度。ゆっくりと庭の静寂を堪能する。

パワースポットの野宮神社
竹の小道。しかしすごい人だな。。。
常寂光寺の内庭。静かに瞑想にふけることが出来る場所でした。

そのまま祇王寺まで足を伸ばそうかと思ったけれど、慣れない散策で疲れたので断念し、落柿舎へ。芭蕉の門人去来の庵で、芭蕉も何度か滞在し、「嵯峨日記」を執筆した場所。ほとんどの観光客が素通りしていくけれど、芭蕉と去来に敬意を表して中に入る。粗末な庵が残っているだけだけどそれなりに風情がある。受付のおじさんと少し立ち話。落柿舎は、現在、公益財団法人落柿舎保存会が管理しているとのことで、定期的に句会を行っているらしい。このおじさんが、財団で唯一、現場を管理しているとのことで、去来の話も芭蕉の話もかなり詳しい。話の節々に教養を感じさせる。こんな風雅なところで日がな一日読書に明け暮れる生活もいいかな、と少しうらやましく感じる。

落柿舎の入り口

昼食を取ってから、午後は嵯峨嵐山文華館へ。十二支の生き物をテーマにした日本画を集めた「いきものがたり」展を見る。それほど期待していなかったけれど、橋本関雪、加山又造、土田麦僊、長沢蘆雪、円山応挙、前田青邨、川合玉堂・・・と大家の作品が並ぶ。しかも写真OK。これは意外と穴場かもしれない。福田美術館との共通券の販売や共同展などの企画もあるとのこと。嵐山も、観光だけでなくアートでも存在感を示しそうですね。また来てみたいと思いました。

長沢蘆雪「親子犬図」
橋本関雪「睡猿」
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